幕末の日本は、外圧の高まりと国内の政権不安定さが絡み合い、まるで一本の縄が解けないような複雑な時代でした。
その中でひときわ異彩を放つのが、鹿児島を本拠地とする薩摩藩です。
薩摩藩士たちの猛々しい武闘派ぶりは、時に日本国内に留まらず、世界を驚愕させることになりました。
「薩英戦争」最強海軍を迎え撃った薩摩藩士
その象徴的な事件が、1863年に起きた「薩英戦争」です。
今回は、この薩英戦争を通じて、当時の薩摩藩士たちがどれほど恐ろしい存在だったのかを紹介します。
生麦事件、薩英戦争の導火線
すべては1862年8月21日に起きた「生麦事件」から始まります。
この事件では、薩摩藩主・島津久光の行列に遭遇したイギリス人商人リチャードソンが、藩士によって斬殺されました。
当時の日本では、大名行列に遭遇した一般人は道を譲るのが礼儀でした。
しかし、リチャードソンは馬から降りるどころか、行列の中へと乗り入れてしまいます。
異文化を持つ西洋人には、その暗黙のルールが通じるはずもありません。
事件後、イギリス政府は激怒し、薩摩藩と幕府の双方に謝罪と賠償を要求しました。
幕府はその一部に応じましたが、薩摩藩は「我らに非はない」と強硬な態度を崩しませんでした。
この対応が、イギリスの怒りをさらに煽り、ついに東洋艦隊が軍艦7隻送り込み圧力をかけます。
薩摩藩の準備、戦争への覚悟
イギリス艦隊の接近を知った薩摩藩は、「来るなら来い」と、戦争を想定し着々と準備を進めていたのです。
鹿児島城下に11の砲台を設置し、合計89門の大砲を据え、さらに、瓶に火薬を詰めた「電気水雷」を開発し、敵艦の接近を阻む仕掛けを用意します。
この水雷はエレキテルを用いた当時としては画期的な兵器でした。
とはいえ、起爆には陸上からの手動操作が必要で、実戦での使用は困難を極めるものでした。
さらに、薩摩藩士たちは「決死隊」という特攻部隊を編成しました。
彼らは西瓜売りに扮し、小舟でイギリス艦隊に接近、艦上で奇襲を仕掛ける計画を立てたのです。
この計画には、のちに日本の重要人物となる大山巌や西郷従道、黒田清隆も加わっています。
もし実行されていれば、彼らの命は失われ、日本の歴史は大きく変わっていたかもしれません。
鹿児島湾に集うイギリス艦隊
1863年8月、イギリス東洋艦隊の7隻が鹿児島湾に現れました。
艦隊は砲撃準備を進める一方、薩摩藩と書面での交渉を続けます。
しかし、薩摩藩が提示した回答書はイギリスの要求を真っ向から拒絶する内容で交渉は決裂。
ついに戦闘が始まる運びとなりました。
イギリス艦隊は、まず薩摩の汽船3隻を拿捕しようと動きました。
この動きを見た薩摩側は、直ちに砲台から攻撃を開始します。
これに応じてイギリス艦隊も反撃を開始し、薩摩城下を砲撃。
約350戸の民家と武家屋敷160戸が焼失し、武器製造所も大きな被害を受けました。
武闘派薩摩藩士の奮闘
戦闘は激烈を極めました。
特に注目すべきは、薩摩藩の砲術の腕前です。
ユリアラス号というイギリスの旗艦に命中弾を与え、艦長と副長を戦死させました。
この一撃は、イギリス艦隊に大きな衝撃を与えました。
しかし、薩摩藩も無傷ではありませんでした。
市街地が焼け野原となり、3隻の汽船もイギリスに破壊されました。
それでも薩摩側の人的被害はわずかで、民間人の避難が徹底されていたことが功を奏しました。
結果としての「勝敗」
その矢先、台風が襲来、イギリス艦隊は強風と高波で思わぬ損害を受けます。
「これ以上の戦闘は無理だ…撤退する!」イギリス艦隊は錦江湾を撤退しました。
一方、薩摩藩は甚大な物的損害を受けたものの、世界最強と言われるイギリス海軍を相手に互角以上の戦いを見せたことで、大いに誇りを高めました。
戦争の結末は、どちらの完全な勝利とも言えませんが、薩摩藩が得た「精神的勝利」は大きかったのです。
戦後、薩摩はイギリスと和平交渉を開始し、最終的に友好関係を築くことを決定しました。
この友好関係を通じて、薩摩藩はイギリスから技術を吸収し、近代化を進めます。
のちに薩摩藩からは多くの留学生がイギリスに渡り、そこで得た知識が明治維新へと繋がっていくのです。
まとめ
薩英戦争は、単なる幕末の一事件ではありません。
この戦争は、薩摩藩が西洋列強に立ち向かい、強靭な精神力と柔軟な戦術で世界にその存在を知らしめた瞬間でした。
そして、薩摩藩士たちの果敢な挑戦が、日本の近代化と国際的な地位向上に繋がる一歩となったのです。
もし、彼らの努力がなければ、明治維新の成功や日英同盟の成立はなかったかもしれません。
この戦いから多くの教訓を学ぶことができます。
異なる文化や価値観を尊重し、受け入れる姿勢、困難に立ち向かう勇気と、そこから成長しようとする柔軟性です。
薩摩藩士たちの勇気と知恵は、私たちが未来に向けて学ぶべき大切な遺産と言えるでしょう。
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