年末年始の帰省や旅行で利用者が増える高速バス、しかしその便利さを支える予約システムが、いま思わぬ弊害に直面しています。
自分の隣に人が来ないように周囲の席をまとめて予約し、発車直前にキャンセルして空席を作る「相席ブロック」という行為です。
快適さを得たいという個人の思惑が、他の利用者やバス会社の経営を圧迫し全国で深刻な問題となり始めています。
なぜ相席ブロックが広がったのか?
高速バスは価格の安さと便利さから、近年は若者だけでなくビジネスパーソンや観光客にも利用が広がっています。
しかし、長時間の移動で隣に人がいると疲労感が増し、トイレに立つ際の気遣いも伴う、女性客の場合は隣に男性が来ることへの心理的不安などもあります。
こうした理由から、「少額のキャンセル料を払えば、広い空間を確保できる」という意識が一部の利用者に浸透してしまいました。
実際、多くのバス会社ではキャンセル料が数百円程度のため、悪意ある利用者にとっては手軽な負担で快適さを買える仕組みとして利用されてしまったのです。
現場の運転士や乗客からは、「周囲がロの字型にガサっと空席になっている」「乗務員の目の前で複数席をまとめてキャンセルしていた」といった証言もあり、明らかに意図的とみられる行為が増加しているといいます。
バス会社にとっては死活問題
相席ブロックが問題として深刻なのは、単なるマナー違反に留まらず、事業者と他の利用者に直接的な損害を与えるためです。
まず、予約システム上は満席となるため、後から予約したい人が席を確保できないままキャンセル待ちとなります。
ところが出発時刻が近づくと、相席ブロックを行った利用者が一気に席をキャンセルし、本来なら売れたはずの座席が空席のまま運行されます。
JRバス中国は、「明らかに悪意のあるキャンセルと思われるケースが増えている」と現場の実感を語っています。
高速バスは、地方の交通を支える重要な収入源で、利用者数が下がれば車両維持や路線運行が難しくなり、住民の生活に直結する問題となります。
さらに、キャンセル理由には体調不良など正当な事情も多く、悪質行為と区別するのが難しいのが現状で、事業者側としても強い規制をかけにくく、対応が後手に回っていた側面があります。
この“レーゾーンの悪用が、相席ブロックを拡大させた最大の原因といえるでしょう。
シート改良と制度の整備
各社は現在、相席ブロック対策としてキャンセル料の引き上げに踏み切っています。
JRバス中国では2024年9月より、24時間前 → 最大50%、2時間前 → 最大100%という厳しいキャンセル料を導入しました。
一方で、業界大手のWILLER EXPRESSは、シート間パーティションやカノピーでプライベート空間を確保、女性専用席の導入などの工夫によって、そもそも相席ブロックが起きづらい環境を実現しています。
さらに同社は、「1人で2席利用できる公式プラン(ダブルシート)」を一部路線で提供しており、悪質行為ではなく正規サービスとして選べる仕組みを整えています。
つまり対策の本質は、「快適性・居住性を高めること」にあると言えるでしょう。
まとめ
高速バスに広がる相席ブロック問題は、深刻な影響を与える新しいタイプの迷惑行為です。
キャンセル料の引き上げは一定の抑止力となりますが、本質的な解決には快適な座席環境の提供と利用者が安心して選べる正規のオプションサービスの充実が欠かせません。
便利さと公平性を両立させる仕組みづくりこそが、業界の未来を左右する鍵となるはずです。
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