最近、なんだか疲れが取れない。ぐっすり眠れない。やる気も集中力も続かない……。
そんな不調を感じていませんか?
健康診断では異常なし。それでも不調が続くのは、ストレスを感じる“脳”に原因があるかもしれません。
実際、うつ病の患者数は年々増加傾向にあり、とくに40~50代の働き盛り世代が目立ちます。
仕事の責任やプレッシャーが増すこの年代。
忙しさから自分を疎かにしがちですが、心と脳のケアは後回しにせずに向き合うべき課題です。
今回は、心療内科医・横倉恒雄先生にストレスと脳の関係、そして今日からできるメンタルケアの方法について伺いました。
男性はストレスを隠し、弱い姿を見せない
__ストレスが溜まっている状態でも、男性と女性では現れ方が違うのでしょうか。
「男性は、ストレスや悩みを人に話す人が少ないですね。
弱い姿を見せないし、隠そうとする。
元気なふりをすることが多いです。
40代前後というのは、中間管理職のような上と下に挟まれる立場になる人が増えるにもかかわらず、悩みや苦労を腹を割って話せる相手や機会が少ないというのもあります。
仕事関係の人とお酒を飲んで、仕事の話や人の悪口などを話していてもストレス発散にならないですよね」
__ストレスが重くなってきていることを自覚できていない人が多いかもしれません。
自分は大丈夫、まだまだ行ける……と元気にふるまったり、ストレスを放置したりしていると、どんな状況になってしまうのでしょうか?
「男性に多いのは『仕事の行き詰まり』として現れるパターンですね。
若いころからずっと仕事をしてきて、ある日突然ポキッと折れてしまう。
仕事熱心な人ほど、仕事モードのまま家に帰ってきて、帰宅後もついつい仕事のことを考え続けてしまうんですよ。
すると脳の切り替えができず、さらに疲労状態が長く続いてしまうわけです」
__男性のストレスによる不調は、どのようなかたちで現れるのでしょうか?
「不眠に関する症状が多いですね。
寝つきが悪い・途中で目が覚めてしまうなどです。
あとは、疲れがとれない、疲れやすいという疲労感に関する症状。
仕事の効率が悪くなったり資料や本などの文章が頭に入ってこなかったりすることもあります。
最近では、天候についていけないという悩みも。
一見、年齢のせいや、忙しさのせいだと軽く考えてしまいがちな症状も、うつ傾向のサインかもしれません」
――脳の疲労が蓄積してくると、自分でも気づかないうちに、まわりとの関係にも変化が出てくるのではないでしょうか?
「そうですね。
男性は、うつ傾向があっても、それを認めようとしない人が多いんです。
でも実際には、ストレスでいっぱいの状態が続くことで、否定的な言い方や攻撃的な言動が増えてきます。
身近な存在であるパートナーにつらく当たってしまい、本人も気づかないうちにパートナーとの関係に影響が出てきてしまうことも少なくないようです」
脳の疲労が慢性化するとどうなる?
__ストレスからくる不眠や疲れやすさを感じるとき、いったい脳はどのような状態にあるのでしょうか?
「理性と本能のバランスが崩れはじめているのが現代人の脳の特徴です。いつも情報にさらされていて、理性はオーバーワーク。
働き過ぎて疲れがたまり、本能の方はどんどん萎縮して、働きが悪くなっていきます。
脳の疲れがたまってくると、【本能】をつかさどる“大脳”からの指令を受け取って働く“間脳”の調子が少しずつ崩れてきます。
間脳は、自律神経やホルモン、睡眠や食欲、免疫や感情のコントロールなど、体と心を整えるための大事な働きを担っている場所です。
【理性】を司る”大脳”も、過度なストレスや長い期間ストレスにさらされるとストレスに対して過敏な状態になります。
その結果、交感神経が常に優位になり、脳に余裕がない状態が慢性的に続くようになってしまうのです。
この状態を、私は“疲弊脳”と呼んでいます。(上記の図の右側)
疲弊脳になると、体の司令塔である脳が正常に働かなります。
その結果、不眠になったり、イライラしやすくなったり、うつ気味になるなど、自律神経の乱れが生じます。
さらに、太りやすくなるなど心身にさまざまな不調を引き起こすのです。
反対に、ストレスを軽く受け流すことができる脳の状態であれば、副交感神経がいつも優位に働き、心身の機能も正常に整います。
このような健康で幸せを感じられる脳の状態を“健幸脳”と呼んでいます」(上記の図の左側)
心・脳の「危険サイン」を知るセルフチェックテスト
__ストレスによる心・脳の状態は、どのように判断したらいいのでしょうか?
「心理テストをやれば一発でわかります。
一般的にはPOMSや脳疲弊度テストといったものを実施します。
以前、会社の産業医として企業のメンタルヘルスに関わっていたことがあるのですが、6月に新入社員に脳疲労テストを実施したところ、40%が疲弊脳という結果になって驚いた経験があるんですよ」
――半数近い人が、疲弊脳になっていたんですね! 5月病という言葉もありますが、入社してすぐに退職してしまう人がいるのも頷ける結果です。
「ただ、心の状態は悪いときもあればいいときもあって、リズムがあります。
常に一定ではなく、上がったり下がったりするものですが、これがなかなか回復しない場合に、“うつ状態”になるんです」
__回復する人と、心が折れてしまう人の違いは、どこにあるのでしょうか?
「私は、“脳のスイッチの入れ方”にあると考えています。
たとえば、会社以外の友人などと話したり、一緒に遊びに行ったりする機会がある人や、趣味の時間を気持ちよく愉しめている人は、比較的、脳の切り替えが上手にできているようです」
自分のストレス状態を「見える化」してみる
脳疲労の状態は、自分でチェックすることができます。
横倉クリニックで実際に使われている脳疲弊度テストで、まずはストレスのたまり具合を「見える化」してみましょう。
【自己診断の基準】
21〜30点:重度疲弊の可能性
11〜20点:中等度疲弊の可能性
0〜10点:軽度疲弊状態の可能性
「点数が高いほど、不眠や疲労感など、ストレスからくる不調が強く出てしまう傾向があります。
とくに11~20点の中等度疲弊以上の人は要注意。
セルフケアを積極的に取り入れつつ、一度、心療内科などの専門外来を受診することをおすすめします。
まずは自分の脳の状態を知り、症状改善につながるよう、できることからアクションを起こすことが大切です」
ストレス世代こそ「五感療法」を
__ストレスを抱えやすい40代は、公私共に忙しい人が多いと思います。
そうした方におすすめのセルフケア方法を教えてください。
「疲弊脳になっている人には、“五感療法”をぜひ取り入れてほしいです。
脳が疲れているなと思ったら、五感を使って“脳が心地よさを感じるチカラ”を磨くことで、脳を元気にすることから始めてみましょう。
現代の生活は、エアコン完備の快適な室内、時間に追われての通勤、スマホやパソコンなどのデバイスの普及など、日々の暮らしの中で、五感で何かを感じる機会が大幅に減っています。
しかし、五感は脳と直結していて、人間本来の健康な脳にしてくれるチカラをもっているんです。
脳の疲れをとって、イキイキと動かすためにも、ぜひ“五感で感じるチカラ”を取り戻していきたいものです」
__五感を刺激する方法というと、具体的にはどのような方法がありますか?
「簡単です。
心地よいことを意識して生活するようにすればいいんです。
いちばん始めやすい方法は、食事の仕方を変えること。
食事は、なるべく空腹を感じてから、五感でじっくり味わいながら食べてみましょう。
たったそれだけでも、脳はしっかりと満足感を得てくれますし、食べ過ぎ防止や太りやすい体質の改善にもなります。
五感のなかでは、香りも大切。
自分が癒されると感じる好きな香りのモノ、スキンケア製品やシャンプー、入浴剤などを使うのもおすすめです。
パートナーがいるなら、一緒に買い物に行って香りの好みを話し合ったり、おすすめし合ったりするのもいいですね。
触感としては、肌触りのいいふわふわのタオルに変えてみるのもいいと思います」
__日用品や化粧品などを一緒に選んだり試したりするショッピングは、パートナーとの会話が増えて気持ちがほぐれそうですね。
「そうですね。
本当に小さなことでもいいんです。
五感を感じて脳が喜ぶことをしてみましょう。
朝5分早く家を出ていつもと違う道を歩いてみて、 空を見上げたり、道端の花に目をとめたりすることでも、五感は癒され刺激されます。
仕事からの帰り道には、本屋に立ち寄るのもよし、喫茶店でひと息つくのもいい。
直帰せずにちょっとした寄り道をすることが、仕事モードの脳のスイッチを切り替える手助けになります。
私の密かなおすすめは、“下着を買い変える”こと。
洋服では選ばないような自分が好きな色を下着で取り入れて身に着けてみる。
そんなさりげないことも、気持ちに刺激をくれます。
また、通勤に使うバックや靴も、「本当に好きだ」と思えるものに変えてみてください。
脳が喜びますよ」
__男性も女性も関係なく、自分の“好きなこと心地よいと感じるもの”を積極的に身の回りに集めていくことが、脳の心地よさ・喜びにつながるんですね。
「そうですね。
けっして難しいことではなく、自分の感性や美的センスのままに、自分が好きなものに触れていけばいい。
でも、男性はどちらかというと、感性に従って生きるのは苦手な傾向にあるので、取り入れやすそうな簡単なことから始めてみてほしいですね」
脳を疲弊させる“禁止の禁止の法則”とは?
__考え方や捉え方のような“思考のクセ”も、疲弊脳に関係がありますか?
「そうですね、思考のクセも疲弊脳に影響します。
いちばんやめてほしいのは、『こうしなきゃ』『~してはダメ』『こうあらねば』などと、自分に禁止・抑制をしてしまうこと。
つい頑張りすぎてしまう人がやりがちです。
私はそれを“禁止の禁止の法則”と呼んでいます。
そんな人は、まず、自分への禁止や命令を減らせるように心がけましょう。
そして、「まあ、いいか」と思えるようにつとめつつ、自分が“心地よいこと”を生活に取り入れていってください。
仕事では難しいと感じる場合は、プライベートのことからでもいいです。
自分に優しい思考に変えていくよう意識することで、理性をつかさどる脳がだんだんと軽くなりラクになっていきます。
心地よさが脳の栄養になり、本能が回復していくでしょう」
__最後に、忙しく責任の多い世代の読者に向けて、横倉先生からお伝えしたいことはありますか?
「男性も、自分にもっと優しく、好きなことをもっと取り入れて自分を解放してあげましょう。
そしてもうひとつ__自分をカッコよくしていきましょう。
見た目も中身も。
男性が年を重ねていって大事になるのは、色気と粋。
これは男性には絶対必要だと思います。
色気は、人の心を引きつける魅力。
粋とは、生き方の美学です。
『今は忙しすぎてそんな余裕はない』と思うかもしれませんが、色気や粋な生き方を磨く最初のきっかけが、五感を磨くことでもあるんです。
そういったことが、脳の“健幸”と心の余裕につながっていきますよ」
五感を意識した生活で、ストレスを受け流せる健幸脳へ
今回の取材を通して、ストレスからくる不調やうつ病は、脳疲労の蓄積にあるということを教えていただきました。
そして、脳のケアは五感へのアプローチや思考を変えることが重要だということも、よくわかりました。
責任やプレッシャーの多いこの年代。
うまく乗り越えるには、“脳のスイッチ”を上手に使いこなすことが大切。
ストレスを軽く受け流せる脳に変わり、自分にもっと優しくなることで、パートナーとの仲もよくなっていきそうです。
かっこよく、そして粋に歳を重ねていくためにも、まずは「五感で感じること」を意識した日常を、今日から始めてみませんか?
横倉先生プロフィール
取材先:心療内科医 横倉恒雄先生
医学博士。横倉クリニック(東京 田町)院長。東京都済生会中央病院に勤務、同病院にて日本初の「健康外来」を創設。病名がない不調を抱える患者さんにも常に寄り添った診察を心がけている。クリニックで行っている講座も好評。著書に『脳疲労に克つ』『心と体が軽くなる本物のダイエット』他
公式|横倉クリニック
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