世界一安全なビルと呼ばれたホンダの青山本社ビルが、ついにその役目を終えます。
1985年の竣工以来、創業者・本田宗一郎さんの理念を体現し続けてきたこの建物が、2025年11月から解体されることになったのです。
多くのファンに惜しまれながら幕を閉じるホンダ青山ビル、わずか40年での解体という決断に至ったのでしょうか…。
創業者の理念を形にした世界一安全なビル
ホンダ青山ビルは1985年8月19日に竣工、地上17階、地下3階、高さ71.4メートルの堂々とした建物で、テーマは「安全・省エネルギー・柔軟性」、創業者の本田宗一郎さんが掲げた、人を守るという理念を、建築の形で具現化したものでした。
特徴的なのは、各階に設けられたバルコニーで、火災時の延焼を防ぎ万一ガラスが割れても歩行者に落下しないように設計されています。
また、広いエントランスは災害時に多くの人が避難できるように設けられ、地下には水や非常食も備蓄されていました。
当時は企業の防災義務がなかった時代、そんな中でホンダは「社員と地域の安全を守る」という姿勢をいち早く示しており、まさに世界一安全なビルの名にふさわしい設計でした。
1階には、ウエルカムプラザ青山があり、誰でも立ち寄れる開放的な空間が人気を集め、ASIMOのデモンストレーションや新車発表会が行われるなど、青山ビルはホンダの象徴として長年親しまれてきました。
ホンダ青山ビルを維持できなくなった理由
しかし、どれほど優れた建物であっても、時代の流れには逆らえません。
ホンダ青山ビルが解体に至った背景には、社会構造と技術基準の変化が深く関係しています。
まず大きな理由は、耐震・省エネ基準の改定です。
阪神・淡路大震災(1995年)や東日本大震災(2011年)を経て、日本の建築基準法は大幅に強化されました。
青山ビルはRC構造で非常に頑丈でしたが、内部設備や配管、空調、通信システムの更新には限界があり、新しい基準に合わせて全面改修するとなると、建て替えに匹敵するコストがかかってしまうのです。
また、働き方の多様化も大きな要因で、現代ではフリーアドレスやオンライン会議が当たり前となり、ホンダが大切にする「ワイガヤ文化(自由な議論)」を活かすには、もっと開放的な空間が必要だったのです。
さらに、ホンダは2050年までにカーボンニュートラルの実現を掲げています。
1980年代の建物をゼロエネルギー仕様に改修するよりも、新築で環境性能を高める方がエコであり合理的な判断でした。
つまり、老朽化ではなく、次の時代に合わせるための再構築こそが解体の理由なのです。
2025年11月から始まる解体と再開発
ホンダ青山ビルは、2025年3月31日に休館イベントを行い、1階のウエルカムプラザ青山が閉館しました。
その後、2025年11月4日から解体工事が正式にスタートし、工期はおよそ2年、2027年8月31日までを予定しています。
今回のプロジェクトは、ホンダと三井不動産レジデンシャルによる共同再開発事業として進められます。
当初は高さ約150メートル・地上25階建てのオフィスビルが予定されていましたが、共同開発となったことで、高層階に住宅(タワーマンション)を併設する複合ビルへと計画が変更される見通しです。
新しい青山ビルでは、再生可能エネルギーの活用や屋上緑化、自然採光など、次世代にふさわしいサステナブル建築が導入される予定で、青山ビルの「安全思想」は、形を変えて未来へと継承されていきます。
また、2029年には東京・八重洲二丁目再開発地区に新たなグローバル本社を移す計画です。
まとめ
1985年の竣工から40年、ホンダ青山ビルは創業者の理念を象徴する世界一安全なビルとして、多くの人々に愛されてきました。
2025年11月からついに解体が始まり、安全から革新へと進化した新たな青山のランドマークが誕生する予定です。
その姿は、これからもホンダの夢を届ける場所であり続けるでしょう。
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