未成年の悪ふざけが重大事故につながった例は、近年のスシロー事件にとどまりません。
日本では過去にも、軽い気持ちのいたずらが、鉄道車両の脱線・横転、沿線住宅の破壊、100人以上の負傷者、そして最高裁判決にまで発展した前例があります。
それが 1980年に大阪で発生した「京阪電気鉄道・置き石脱線事故」、未成年の行為であっても重大犯罪となり、親が高額の賠償責任を負い、社会全体の鉄道安全対策を変えるほどの衝撃を残しました。
遊びが大事故へ変わった瞬間
事故が起きたのは1980年2月20日の午後8時59分、大阪府枚方市にある京阪本線の枚方市駅と御殿山駅の間でした。
近くに住む中学2年生の5人が、線路沿いに置かれていたケーブルトラフの蓋をふざけて線路上に置きました。
そこに淀屋橋発三条行きの急行電車が高速で進入、5000系7両編成の先頭車両が蓋に乗り上げた瞬間、列車は制御を失い3両が脱線しました。
2両は激しく横転し、1両は線路脇の民家へ突っ込みます。
現場には破損した車体と散乱する荷物、衝撃で転倒した乗客の叫び声が響き渡り、一夜にして大惨事へと変わります。
奇跡的に死者は出なかったものの、負傷者は104名にのぼりました。
中学生の責任と賠償問題
事故後、京阪電鉄は中学生5人と保護者に対し大規模な損害賠償を請求、5人のうち4人は、1人あたり840万円の支払いで示談に応じました。
しかし、残る1人の保護者は「グループに参加していたが実行行為には関わっていない」と主張し、示談には応じませんでした。
これにより裁判が始まり、一度は大阪高等裁判所が保護者側の主張を認める形で責任を否定します。
ところが1987年、最高裁判所は重大な判断を示します。
「犯行を話し合った段階で加わっていた者には、実行役でなくとも賠償責任が生じる」とする判断、この判決によって審理は差し戻され、最終的に5人全員が同額の示談金を支払うことで和解が成立しました。
京阪電鉄が受け取った示談金は計4200万円でしたが、それでも実際の損害額のおよそ10分の1にしかならず、残る9割は保険によって補填されました。
未成年であっても、親が極めて大きな責任を負う現実が広く知られることとなった瞬間です。
いたずらが犯罪に変わる現実
この事故は「子どものいたずら」という言葉では到底片づけられない重みを社会に突きつけました。
線路に物を置く行為は、現在の法律では列車往来危険罪や威力業務妨害罪、場合によっては器物損壊罪など極めて重い犯罪に該当します。
中学生たちは、誰かを傷つけようとしたわけではなかったかもしれません。
しかし、結果として列車が横転し多くの負傷者を出しています。
鉄道は数百人の命を乗せて走る以上、わずかな障害物であっても乗客全員の命を奪う危険がある、その事実をこの事故は改めて教えてくれました。
また京阪電鉄は事故後、線路沿いへの侵入防止フェンスを大幅に強化し防犯対策も積極的に導入、さらに先頭車両には排障器と呼ばれる障害物を跳ね飛ばす装置を標準装備し、先頭台車にも補助排障器が取り付けられました。
これらの取り組みは京阪電鉄だけでなく、全国の鉄道事業者へと広がり日本の鉄道安全を一段と高める転機となりました。
私たちが現在、安全な鉄道網を利用できている背景には、この事故を教訓にした努力があったからでしょう。
まとめ
1980年の京阪電鉄置き石脱線事故は、未成年の軽い気持ちが社会全体を揺るがす悲劇へとつながった象徴的な事件でした。
この事件が教えるのは、行為そのものではなく「結果」が人の人生を大きく左右するということです。
鉄道に限らず、インフラへのいたずらがどれだけ多くの命を危険にさらすかを、改めて考えてみてはいかがでしょうか。
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