2025年は北海道だけでなく全国各地で熊の目撃・被害が急増し、これまでにない深刻な状況が続いています。
なぜ、熊が人里へ頻繁に現れるようになったのか、その背景には私たち人間の「餌付け」による行動変化があると言われています。
山に落ちている生ゴミ、放置された果樹園、庭先の残飯、そしてハンターが森に捨てたエゾシカの死骸、こうした意図しない餌やりが、熊の行動をわずか数年で大きく変えてしまうのです。
今回は、北海道で牛66頭以上を殺傷した怪物ヒグマOSO18を実例にしながら、熊に餌を与えることの本当の危険性を考えます。
餌付けがもたらす熊の行動変化
熊に餌を与えてはいけない、これは全国の自治体が必ずアナウンスするルールですが、その理由は単に危ないからではありません。
熊は非常に学習能力が高い動物で、簡単に手に入る食べ物を一度味わうと、人里へ戻り続ける習性があります。
熊は本来、植物や木の実、根・虫などを中心に食べて暮らします。
しかし、人間が捨てた生ゴミや放置された果樹園、ペットフードなどに一度でもありつくと、熊は「最も効率よく食べ物を得る方法」として人間の生活圏を記憶します。
その結果、家のゴミ箱を漁る、農地に侵入する、家畜を襲う、など行動が人間の生活と密接に交わり始めます。
つまり、餌付けは人間も熊も不幸にする行為なのです。
OSO18は人間の行動が生んだ肉食の怪物だった
2019〜2023年にかけて北海道東部で牛66頭以上を襲った「OSO18」は、その象徴的な存在です。
忍者のような警戒心、罠を避ける行動、そして巨大な体、地元では怪物ヒグマと恐れられましたが、その背景には私たち人間が作り出した環境の歪みがあります。
北海道東部では近年、増えすぎたエゾシカの駆除が進められていました。
しかし、100kgを超えるエゾシカの死骸を山から運び下ろすのは非常に重労働であり、角や一部の肉だけ持ち帰り、残りを森に放置する不法投棄が多発していたのです。
OSO18は、この森に突然できた肉のレストランにいち早く気付き、鹿の死骸を常食するようになります。
すると、もともと植物食中心だったはずのヒグマが、自らの意思で肉の味を覚えてしまったのです。
研究データでも、ヒグマは一度肉食に傾くと、植物や山菜よりも高カロリーで効率の良い肉を優先して食べるようになることが分かっています。
つまり、OSO18は自然に生まれた怪物ではなく、人間が作り出した環境が生み落とした被害個体だったと言えるのです。
OSO18は2023年に駆除されましたが、問題はこれで終わったわけではありません。
むしろ今こそ、同じような熊が再び誕生する可能性が高まっているのです。
餌付けの連鎖が再び進行している現実があり、一度でも人間の食べ物に味をしめた熊は山に戻らなくなります。
人を恐れず、昼間でも堂々と行動し、家畜や畑を狙うようになる、これは OSO18 と全く同じルートです。
今の北海道では、体重300kgを超える大型のヒグマも増えており、幼獣の巨大化も進んでいるため、次に出現するのはOSO18を上回る肉食化した大型個体の可能性があると言われます。
まとめ
OSO18は数年間にわたって農家を恐怖に陥れた存在でしたが、その根底には人間の行動が生み出した餌付けの連鎖がありました。
熊に餌を与えるという行為は、一見小さな過ちに見えても、長い年月をかけて熊を人間社会へ引きずり込む行為です。
今年の異常な熊被害が続く今、まさに私たちが深く受け止めるべき警告なのです。
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