一時は「神の食パン」とまで呼ばれ、全国に240店舗以上を展開した高級食パン専門店『乃が美(のがみ)』、しかしブームから5年が経った今、閉店ラッシュが止まりません。
なぜ、あれほど人気を集めたブランドが急速に衰退してしまったのでしょうか。
その背景にあるフランチャイズ契約の重圧とマスコミが作り上げた安易なブームの構造とは…。
日本中を席巻した生食パンブーム
2013年に大阪で誕生した乃が美は、焼かずに食べられる高級生食パンという新しいスタイルを打ち出し、瞬く間に人気を集めました。
卵を使わず、生クリームや蜂蜜でしっとりと仕上げた食パンは、とろけるような口どけとして話題になり、テレビや雑誌で何度も紹介されます。
同時期にセブン-イレブンが発売した「金の食パン」も1500万個を売り上げ、高級食パンはプチ贅沢の象徴となり全国に広がっていったのです。
2018年には乃が美が全国100店舗・売上100億円を突破、続いて「考えた人すごいわ」や「銀座に志かわ」など、個性的な名前の高級食パン専門店が次々と登場します。
ピーク時には全国で約1500店舗に達し、異業種からの参入も相次ぎ、生食パンブームが始まりました。
乃が美を苦しめた構造的問題
華やかな成功の裏で、乃が美の経営モデルには深刻な課題がありました。
全国展開の中心は本部直営店ではなく、「はなれ」と呼ばれるフランチャイズ加盟店で、オーナーは売上の10%をロイヤリティとして本部に支払う契約を結んでいました。
しかし、コロナ禍が直撃すると売上が急落してもロイヤリティ率は変わらず、契約を途中で解除する場合は1年分のロイヤリティを違約金として支払う義務があり、オーナーたちは苦しい経営を強いられていったのです。
さらに2022年には、虚偽の収支データを提示されたと主張する元オーナーが乃が美を相手取り、1円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴しました。
2023年12月の判決では訴えが棄却されましたが、この「1円訴訟」はフランチャイズビジネスの構造的な問題を浮き彫りにしました。
乃が美側は事実無根と主張していますが、信頼関係には大きな傷が残ったのです。
マスコミが煽った銀座食パン戦争
ブームを加速させたもう一つの要因が、メディアの過熱報道です。
「銀座に志かわ」は立ち上げ当初からメディアを意識した戦略を展開し、2019年には『ガイアの夜明け』(テレビ東京系)が「乃が美」と「銀座に志かわ」を比較特集し、放送直後には店舗に行列ができるほどの反響を呼びました。
その影響でフランチャイズ希望者が急増し、短期間で全国に出店が拡大、しかしこのテレビが作ったブームは持続力がなく、同じ商圏に競合店が乱立する結果になり、コロナ禍の終息とともに需要が落ち着くと、売上は急激に減少していきます。
乃が美の店舗数は2023年時点で116店にまで減り、2025年現在では約70店舗前後で推移、銀座に志かわも最盛期の140店舗から約50店舗にまで縮小しました。
経営コンサルタントのプロは、こう語っています。
「マスコミを巻き込んだ安易なブームこそが最大の原因です。誰でも参入できる業態は、粗製乱造と価格崩壊を招きます。成長期をすっ飛ばしてピークを迎えたビジネスは、衰退も早いのです。」
実際、ブームのピーク期には同じエリアに複数の高級食パン店が並び、消費者の興味は急速に冷めていきました。
「どれも同じ味」「値段に見合わない」といった声も増え、需要が急激に縮小、結局供給過多となった市場は淘汰され、勢いに任せた出店の多くが撤退に追い込まれたのです。
まとめ
かつて「神の食パン」と称された乃が美は、現在も約70店舗を維持しながら、オンライン販売などで再起を図っています。
しかし、フランチャイズの歪みとメディア主導のブームに依存したツケは大きく、ブランドへの信頼回復には時間がかかりそうです。
乃が美の盛衰は、私たちに流行に流されない強さの重要性を改めて教えてくれたと言えるのではないでしょうか。
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