海の町・茨城県大洗町といえば、青い海と新鮮な魚介、そして人気アニメ『ガールズ＆パンツァー』の聖地として知られる観光地です。
夏には多くの観光客でにぎわうこの街の海沿いに、南国リゾート風のショッピングモール「大洗シーサイドステーション」があります。
ヤシの木が並び、海を望む最高の立地、しかしその中に足を踏み入れると驚くほどの静寂が広がっています。
休日の午後でも人影はまばら、まるで生きる廃墟と化したモールにいったい何が起きたのでしょうか…。
リゾートの夢から始まった大洗リゾートアウトレット
この施設の歴史は、2006年3月に大洗リゾートアウトレットとして開業したところから始まります。
日本各地でアウトレットモール建設がブームとなっていた時期であり、大洗町も観光地としての相乗効果を狙って誘致しました。
海辺の開放的なロケーションに約70店舗が入居し、ファッションや雑貨、飲食店が立ち並び、当初は観光客にも地元住民にも人気で華やかなスタートを切ったのです。
しかし、5年後の2011年に悲劇が訪れます。
東日本大震災の津波が大洗を襲い、施設の1階部分が水没、被害総額は40億円、復旧には16億円を要しました。
数か月後に営業を再開したものの、客足は戻らずテナントの撤退が続出、開業時70店舗あった店は現在31店舗ほどに減少しています。
震災によるダメージは、施設の物理的な傷だけでなく、経営の屋台骨をも揺るがしたのです。
観光地・大洗が盛況でも、モールだけ取り残された理由
大洗町自体は、今も茨城県を代表する観光地です。
水族館アクアワールド大洗や明太子工場のめんたいパークには家族連れが押し寄せ、観光客数もコロナ禍を経て再び上昇傾向にあります。
2023年には県内で入込客数第2位を記録するなど、町全体はむしろ活気を取り戻しているのです。
その一方、大洗シーサイドステーションだけが空洞化しているのはなぜでしょうか。
その理由のひとつは、施設の方向性のブレにあります。
2017年、事業者交代により施設名を「大洗シーサイドステーション」に改称、観光客と地元客が行きかう複合モールとして再生を掲げましたが、結果的にどちらの層にも刺さらない中途半端な構成になってしまいました。
観光客にとっては目玉となるブランドや体験が少なく、地元住民にとってはスーパーやドラッグストア以外に日常的に利用する理由がない、リゾートモールとしての華やかさも地元密着型の利便性も中途半端なままで、立地の魅力を生かしきれなかったのです。
さらに追い打ちをかけたのが、2020年のコロナ禍、観光客の激減により再び休業・撤退が相次ぎ、空きテナントが増える悪循環に陥りました。
ガルパン効果も不発、モールの色が見えない現実
大洗町といえば、アニメ『ガールズ＆パンツァー』（通称ガルパン）の聖地としても知られます。
作中に登場する学校のモデルが大洗町に実在し、町全体でコラボ企画やグッズ販売が展開されています。
実際、商店街や神社はアニメファンの巡礼でにぎわい、地域経済に大きく貢献してきました。
しかし同じ大洗でも、シーサイドステーションではその効果が限定的でした。
館内には、ガルパンギャラリーなど関連施設があるものの、モール全体が一体となって盛り上げる仕組みにはなっていません。
学術的にも、筑波大学の松井圭介教授らは「コンテンツツーリズムは、地域全体の連携がなければ経済波及効果を生まない」と指摘しています。
つまり、点での取り組みはあっても、面としての統一戦略が欠けていたのです。
まとめ
大洗シーサイドステーションは、震災・コロナ・競合増という外的要因に加え、方向性の迷走と戦略の欠如によって沈んだモールです。
しかし、町全体は観光地として健在であり、再生のチャンスは残されています。
観光客にとっても地元にとっても必要な場所を目指し、地元事業者の力と創意で新しい風を吹き込めば、かつてのような賑わいを取り戻す日も遠くはないはずです。
静まり返った館内に再び笑い声が響くその日が来ることを、多くの大洗ファンが待ち望んでいます。
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