かつてWindowsパソコンに必ず存在していた青いeマークを覚えていますか?
そう、Internet Explorer(IE)です。
一時は世界シェア90%以上を誇り、「インターネット=IE」という時代を築きました。
しかし今や、ほとんどの人がその存在を忘れ、起動しようとしてもEdgeに切り替わる現実…。
なぜIEはここまで凋落してしまったのか…?
今回は、IEの栄光と消滅の背景を紹介します。
世界を制したインターネットの入り口

Internet Explorer(IE)が誕生したのは1995年、ちょうどインターネットが一般に普及し始めた頃です。
当時、Netscape Navigatorというライバルが存在していましたが、マイクロソフトはIEをWindows 95 Plus!パックに無償で付属させる戦略を取り、一気にシェアを拡大していきました。
その後、Windows 98以降はOSに標準搭載されるようになり、ユーザーは特に意識せずともIEを使うようになります。
企業や学校、家庭でも「インターネットを始める=IEをクリックする」が当たり前となり、2002年にはついに世界シェア90%超えという驚異的な数字を記録します。
このIEの普及は、マイクロソフトのビジネスモデルと密接に関係しています。
Windowsという巨大プラットフォームに組み込むことで、他のブラウザを選ぶ理由すらなかったのです。
まさに「デフォルトの強さ」の象徴と言えるでしょう。
しかし、この圧倒的な成功が、やがてIEにとって大きな落とし穴になることは、当時誰も予想していなかったでしょう…。
アップデートされない王者
2000年代後半、Webの世界は大きな転換期を迎えます。
Ajax技術により、ページを再読み込みせずに情報を取得するインタラクティブなUIが実現し、HTML5やCSS3によって、ブラウザの表現力は飛躍的に向上します。
これまでの静的なWebから、動的でリッチなWebアプリケーションへと進化していったのです。
その波に素早く乗ったのが、Google Chrome(2008年リリース)やMozilla Firefoxといったモダンブラウザでした。
これらのブラウザは、数週間ごとに小刻みにアップデートを重ね、新機能やセキュリティ強化を即座にユーザーに提供します。
一方、IEはというと、WindowsのOSアップデートに合わせてしかバージョンが上がらない仕組みだったため、数年に一度の更新が当たり前、しかもその間、深刻な脆弱性が修正されなかったり、最新のWeb標準に未対応だったりと、開発者からも「開発する上で最も面倒なブラウザ」と敬遠される存在になっていったのです。
Web制作の現場では「IEだけ動作確認したくない」「IEのバグ対応に時間がかかる」といった声が日常的に上がり、徐々にIEを対象から外すサイトも増えていきました。
さらに、IEはActiveXなどの独自機能に依存していたことも問題でした。
これは一部のWebシステムにとっては便利でしたが、他ブラウザとの互換性を犠牲にした閉鎖的仕様でもあり、結果的にIEは孤立していったのです。
自ら引導を渡したマイクロソフトの決断と最期
決定打となったのは、2015年にマイクロソフトがリリースした新ブラウザ「Microsoft Edge」の登場です。
これはIEとは全く別の設計思想で開発されており、Google Chromeと同じChromiumベースを採用、表示速度・操作性・セキュリティ性のすべてにおいて、IEを大きく上回る性能を持っていました。
マイクロソフトはこのタイミングで「今後はEdgeを使用してください」と公式にアナウンス。
IEに対する継続的な投資を行わない方針を明確にし、開発者向けドキュメントもEdge中心に再編されていきました。
こうして、IEは実質的に「役目を終えた存在」として扱われ、2021年には世界シェアが1%未満にまで低下、そして2022年6月15日、ついにIEのサポートは正式に終了し、今やIEを起動しようとしても、自動的にEdgeにリダイレクトされる仕様となりました。
ただし、完全にIEが消えたわけではありません。
現在も一部の企業や官公庁では、IEでしか動かないレガシーシステムが稼働しており、その対応策としてEdgeには「IEモード」が搭載されています。
このIEモードの提供は2029年までとされており、それを過ぎればIEの魂すらも完全に消滅することになります。
まとめ
Internet Explorerは、まぎれもなくインターネットの黎明期を支えた名ブラウザでした。
しかし、技術の進化、ユーザーのニーズの変化、そしてセキュリティへの要求が高まる中で、変化に対応できなかった者の末路をIEは体現してしまいました。
この出来事は、ビジネスや個人のキャリアにも通じる重要な教訓です。
どれだけ過去に成功しても、現状維持を続けているだけでは、いつか時代に取り残される。
IEの消滅は、過去の栄光に甘んじず、常に変化と進化を求め続けることの重要性を私たちに教えてくれているのかもしれません。
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