2000年、日本中が食の不安に陥った「雪印集団食中毒事件」が起こりました。
日本を代表する乳製品メーカー・雪印乳業が、1万人以上の食中毒被害を引き起こし大きな社会問題に発展。
この事件は単なる衛生管理ミスではなく、ずさんな企業体質、危機対応の失敗、記者会見での大炎上が重なり、企業の信用を失墜させた事例として語り継がれています。
今回は、雪印集団食中毒事件の背景とその後の影響について紹介します。
なぜ雪印の乳製品が食中毒を引き起こしたのか?
2000年6月、大阪府を中心に「雪印乳業の低脂肪乳を飲んだ後、激しい腹痛や嘔吐を引き起こした」という報告が相次ぎます。
最終的な被害者数は13,420人にものぼり戦後最大の食中毒事件となりました。
では、なぜこのような大規模な食中毒が発生してしまったのでしょうか…?
その原因は、北海道にある雪印乳業・大樹(たいき)工場での停電にまでさかのぼります。
2000年3月31日、北海道の大樹工場で大規模な停電が発生、原因は電気室の屋根が損傷し、そこから氷雪の解けた水が流れ込んだことによる漏電でした。
この停電により、通常は短時間で終わるはずのクリーム分離工程で原材料の生乳が長時間温められた状態で放置されてしまいます。
さらに、停電復旧後には温度管理ができていないまま乳製品の生産が続行され、結果として黄色ブドウ球菌が増殖し、その毒素(エンテロトキシン)が生成される環境が整ってしまったのです。
通常、このように管理ミスで汚染された原料は廃棄されるべきですが、大樹工場では「もったいないから使おう」という判断が下されたのです。
製造課長も「加熱処理すれば大丈夫だろう」と考え、安全性の確認をしないまま脱脂粉乳として製造・出荷しました。
この汚染された脱脂粉乳は、その後大阪工場に送られ、低脂肪乳や乳飲料に加工されたのち全国に出荷されました。
ここに、雪印集団食中毒事件の原因が生まれたのです。
事件発覚!なぜ被害がここまで広がったのか?
6月25日、和歌山県で雪印の低脂肪乳を飲んだ子どもたちが嘔吐・下痢を訴えて病院に搬送されました。
その後、大阪・兵庫・奈良・京都など関西圏を中心に同様の症例が続出し、食中毒の可能性が浮上します。
問題だったのは「雪印乳業の対応の遅さ」でした。
- 6月27日 大阪市が雪印乳業に調査を求める
- 6月28日 食中毒の原因が雪印乳業の低脂肪乳の可能性が高まる
- 6月29日 大阪市が独自に記者会見を開き、消費者に注意喚起
- 6月30日 大阪市が雪印乳業に正式な製品回収命令
このように、大阪市の発表と対応のほうが、雪印乳業よりも早かったのです。
この時点で被害者数は急増し、企業の「危機対応力のなさ」が世間に広まりました。
伝説の記者会見「寝てないんだよ!」発言が炎上
企業の対応の遅れに加え、雪印乳業の石川社長の記者会見が事態をさらに悪化させました。
記者会見では、延長を求める記者と以下のようなやりとりがありました。
- 雪印:「では後10分」
- 記者:「何で時間を限るのですか。時間の問題じゃありませんよ。」
- 石川社長:「そんなこと言ったってねぇ、わたしは寝ていないんだよ!」
- 記者:「こっちだって寝てないですよ! そんなこと言ったら、10ヶ月の子供が病院行ってるんですよ!寝てないとかそういう問題じゃないでしょう」
- 石川社長:「はい、それはわかっています」
この様子が全国に報道され、世間の怒りはさらに増大しました。
この会見は、世間から多くの非難がありました。
- 記者の質問に対し、誠実な対応をしなかった
- 製品回収の遅れを指摘されても、曖昧な回答を繰り返した
- 「寝てない」発言により、「被害者よりも自分のことを優先している」と受け取られた
この会見は「企業の危機管理の失敗例」として今も語り継がれています。
なぜ雪印乳業は再起できなかったのか?
この事件が企業に与えたダメージは計り知れません。
食中毒事件後、雪印の売上は激減し、多くの消費者が離れていきました。
さらに、2002年雪印食品(雪印乳業の子会社)が「牛肉偽装事件」を起こし、さらに信用を失墜させました。
- 輸入牛肉を「国産牛肉」と偽って補助金を不正受給
- 内部告発で発覚し、社会的批判が殺到
- 最終的に「雪印食品」は解散
この事件が決定打となり、雪印乳業は経営難に陥りました。
食中毒事件と牛肉偽装事件の影響で経営が立ち行かなくなり、雪印乳業は2003年に分社化され、「雪印メグミルク」として再出発したのでした。
まとめ
雪印集団食中毒事件は、企業の危機対応の失敗がどれほどのダメージをもたらすかを示した事例でした。
適切な対応ができていれば、ここまでの企業崩壊には至らなかったかもしれません。
食の安全を守ることが企業存続のカギである、この事件は今も私たちにその教訓を残しています。
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