中国市場において確かな存在感を誇っていたブリヂストンが、2024年に商用車用タイヤ事業からの完全撤退を発表しました。
このニュースに衝撃を受けた方も多いのではないでしょうか?
なぜ世界的なタイヤメーカーが世界最大級の市場から撤退する判断をしたのか?そして、その結果、中国国内では何が起きているか?
今回はその全貌を紐解いていきます。
なぜブリヂストンは中国から撤退したのか?

ブリヂストンが中国に進出したのは1999年、自動車産業の急拡大と共に需要が見込まれる中、瀋陽に商用車タイヤ工場を設立しました。
中国市場での現地生産、アフターサービスの充実、高耐久・高性能タイヤの提供により、一定のシェアと信頼を築いてきました。
しかし近年、状況は一変します。
最大の要因は、現地メーカーとの激しい価格競争です。
中国政府の製造業強化政策を背景に、多くの地場タイヤメーカーが技術力を高め、価格面で優位に立つようになります。
加えて、2020年以降のゼロコロナ政策や米中貿易摩擦の影響、物流需要の減少などが重なり、商用車用タイヤの市場は急速に縮小しました。
こうした状況下で、ブリヂストンは「乗用車向けの高付加価値タイヤ事業に集中する」というグローバル戦略を優先、収益性の悪化した商用車部門から撤退する決断を下したのです。
これは単なる競争敗北ではなく、資源を最も成長が見込める分野に集中させるという前向きな決断でもあります。
安価な中国製タイヤの台頭と現場への影響
ブリヂストンの撤退により、最も影響を受けたのは中国の中小規模の運送業者です。
ブリヂストン製タイヤは高価でありながら、耐久性と安全性に定評があり、安心して長距離輸送に使えるものでした。
しかし、撤退後に市場を席巻したのは安価な中国製タイヤ、その普及は急速でしたが同時に重大なリスクも伴っていました。
特に問題視されているのは、品質のばらつきと安全性の低さです。
地方の無名メーカーが生産するタイヤの中には、素材や構造に問題がある製品も多く、バーストや脱輪といったトラブルの報告が相次ぎます。
SNSやニュースメディアでは、タイヤトラブルによる重大事故の映像が拡散され、「安価な粗悪品」が現実のものとなっている様子が伺えました。
さらに、これらのタイヤは走行時の安定性にも難がありドライバーの疲労が増大、運送業界の労働環境が悪化し離職者も増えるなど、業界全体に悪影響を及ぼしました。
タイヤ整備や交換体制もブリヂストン撤退後には空白が生まれ、サービスの質も低下しました。
かつてのような安心して任せられるブランドが消えたことで、多くの経営者が頭を悩ませています。
ブリヂストン撤退が突きつけた現実と今後の展望
中国の運送業界にとって、タイヤは「命を運ぶ足」です。
しかし、経済成長の鈍化と激しい価格競争のなかで、企業はコスト削減を最優先にするようになり、タイヤのような基礎的な安全資材さえも「節約の対象」となってしまいました。
その結果、低価格で品質の低いタイヤが急速に普及し、トラック運転手の命や健康が脅かされる事態に至ったのです。
この流れを見てブリヂストンは、あえて競争に居残るのではなく、質とブランドを守るために撤退する道を選んだとも言えるでしょう。
同様の理由から、他の日本企業も徐々に中国から撤退を始めています。
インドや東南アジアなど、品質と信頼が求められる市場へと軸足を移す動きが加速中です。
企業の戦略はコストだけでなく、信頼・安全・未来の成長性に基づくものであるべき時代に入っているのです。
まとめ
ブリヂストンの中国撤退は、現代のグローバル経営において極めて示唆的な事例です。
品質や安全性を軽視し、価格だけを追い求めた結果、市場には事故・離職・不信という代償が押し寄せました。
撤退の選択は、単に市場から逃げたのではなく、「守るべき価値」にフォーカスした勇気ある決断ともいえます。
この事例から我々が学ぶべきは、モノの値段ではなく、その裏にある安全や信頼といった「見えない価値」を見極める目の大切さなのではないでしょうか。
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