オシャレで高性能な白物家電で人気を博したバルミューダが、2021年にスマホ市場に参入して注目されました。
しかし、期待された「BALMUDA Phone(バルミューダフォン)」は短命に終わり、わずか1年半後の2023年にスマホ事業からの撤退を発表。
高級家電メーカーとしての成功経験を持つバルミューダが、なぜスマホ事業では通用しなかったのか?
その背景には、ブランド戦略のズレ、価格と性能のミスマッチ、市場理解の甘さなど、さまざまな要因が複雑に絡んでいたのです。
ブランドの力を信じた異業種参入という挑戦

バルミューダは2003年に元ミュージシャンの寺尾玄氏が創業。
最初はノートPCの冷却台やデスクライトなどのプロダクトを手がけていましたが、2011年以降、扇風機や加湿器、そして代表作「BALMUDA The Toaster」の大ヒットで家電メーカーとして確固たる地位を築きました。
とくにトースターは、通常の数千円クラスとは一線を画す2万7000円超という高価格帯ながらも、使った人の「生活体験を変える家電」として広く受け入れられ、累計150万台以上の売上を記録、この「機能+感性の価値を売る」スタイルをスマホにも応用しようと、バルミューダは2021年11月、「BALMUDA Phone(バルミューダフォン)」を発表したのです。
バルミューダフォンは、背面まで丸みを帯びたデザインで、どこから見ても直線がないというユニークな外観で、画面サイズは当時としては珍しい4.9インチの小ささ。
さらに、独自開発のカレンダー、電卓、メモ帳などを搭載し、スマホ全体に一貫したバルミューダらしさを貫いていました。
これまでのスマホとは異なり、あえて「コンパクトで愛着のわく端末」を目指した設計は、ある意味でiPhoneやPixelとは真逆のコンセプトです。
価格はSIMフリー版で10万4800円、ソフトバンク版で14万超、ハイエンド機並みの価格でしたが、その理由としては「完全自社デザイン・独自UIの開発コスト」が重くのしかかっていたとされています。
問題はスペックとの乖離「高すぎる」の声が一気に拡散
スペック面ではSnapdragon 765搭載・2500mAhバッテリー・FHD未満の解像度液晶と、当時の基準でもミドルレンジの域を出ない内容でした。
「感性に寄せた端末」としては一定の評価もありましたが、ガジェット好きや一般ユーザーにとってはやはり価格とのバランスが取れておらず、「スペックと価格が見合っていない」という批判がSNSで炎上気味に拡散されます。
さらに、「料理モードで撮ると料理が青く映る」カメラ不具合がネットで話題に…。
製造を委託していた京セラが対応し改善されましたが、ネガティブな印象を払拭するには至りませんでした。
発売当初はソフトバンク販売網の営業努力もあり、初動は想定を超える売上を記録しましたが、一般層の評価は伸び悩み販売が鈍化していきます。
2022年3月には早くも7万8000円に値下げされ、ついには「一括1円」での実質投げ売りに至りました。
バルミューダにとって、これは初の価格改定(値下げ)というブランド的にも大きな転換点で、プレミアム路線を保ってきた企業が、価格競争の世界で自らのポジションを失った瞬間でした。
スマホ市場というレッドオーシャン
最終的に、バルミューダは2023年5月にスマートフォン事業からの撤退を発表。
その理由としては主に以下の4点が挙げられます。
- 製造を委託していた京セラが個人向けスマホ事業から撤退
- 物価高と賃金停滞で消費者の買い替え需要が鈍化
- スマホ市場が既に完成された商品になり、差別化が難しい
- スペック主義・コスパ重視の消費者ニーズとの不一致
さらに、Pixelなど大手メーカーが1円端末のキャンペーンを連発する中、もともと価格を維持しにくかったバルミューダにとって、継続的な事業展開は非常に厳しかったのです。
まとめ
バルミューダフォンは、ビジネス的には明らかに「失敗作」と評価されるかもしれません。
しかし、異業種からの挑戦としては、非常に価値のある試みでした。
リスクを恐れず、独自性に挑み続ける姿勢こそが、バルミューダという企業の強さであり、今後の新製品にも通じる「芯」なのかもしれません。
「またトースターのような驚きの商品を」バルミューダにはそんな期待が、今も残っています。
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