かつては運転の基本とまで言われたマニュアル(MT)免許ですが、2025年4月の制度改正を機に、「MT免許はもう教習所で取れないらしい」「AT限定で十分な時代が来た」という声が広がり、SNSでも驚きと困惑の声が相次いでいます。
教習所でギアチェンジの練習をした日々は、もう過去のものとなってしまうのでしょうか?
今回は、なぜMT免許が実質的に廃止の方向に進んでいるのか、そしてその背景にある社会の変化や制度の狙いについて紹介します。
制度改正で起きた教習プロセスの大転換

2025年4月から施行された制度改正により、自動車教習所におけるMT免許取得の環境は大きく変わりました。
具体的には以下のような構造改革が行われています。
- 基本の31時限すべてをAT車で教習
- MT車は「補足的」な4時間のみの乗車に変更
- 検定も原則としてAT車で実施
これまでは、MT車をベースに教習を受け、必要に応じてAT車にも乗る形式でした。
しかし現在は完全に逆転し、「教習はATが基本」「MTはオプション扱い」となってしまったのです。
その結果、教習所側ではAT車の導入・運用がメインとなり、MT車を保有・維持するコストが見合わないと判断してMT教習を廃止する教習所が急増しています。
これは事実上、「MT免許を取りたくても取れない時代」の始まりともいえるのです。
なぜこんなことに?背景にある3つの理由
この大きな制度変更の背景には、社会全体の変化と政策的な判断が重なっています。
主な理由は以下の3つです。
①AT車の普及とMT不要時代の到来
新車販売におけるAT車の比率は2020年時点で約99%、2025年現在でも9割以上がAT車という状況になっています。
乗用車に限って言えば、MT車に出会うこと自体がもはやレアケースで、特に若者層では「免許を取ってから一度もMT車に乗っていない」「運転できる自信がない」という声が非常に多く、技能の陳腐化が進んでいるのが現実です。
②事故防止の観点からAT一択がベター
警察庁や公安委員会の見解として、「操作に慣れないMT車を数年ぶりに運転したことで事故を起こすケースが多発している」との報告もあります。
そのため、誰でも安全に運転できるAT車を基本とした運転教育を徹底する流れが強まっており、MT操作はむしろリスクになり得ると判断されているのです。
③EV・ハイブリッド・自動運転の時代背景
現在の自動車技術はEV(電気自動車)、HV(ハイブリッド車)、そして自動運転という次世代の技術へとシフトしています。
これらの車両は基本的にギア操作が不要なため、マニュアル運転の技術そのものが不要になりつつあります。
技術的進化に伴い、「MT操作を教える意味がなくなった」とする教育機関の判断は、ある意味で時代の流れに則ったものでもあります。
一発試験や準中型に活路
それでもどうしてもMT免許を取得したいという人は、いくつかのルートが残されています。
- 運転免許センターでの一発試験(技能試験)
- 教習所を介さずに準中型免許を取得(18歳から受講可能)
ただし、これらは教習所に通わない分、技能ハードルが高く、落ちやすいリスクもあるため、実質的なハードルはさらに上がっているといえるでしょう。
かつて、「男ならMT」「就職に有利」「運転の基礎はマニュアルから」といった言葉があふれていた時代がありました。
しかし今となって、その努力は無意味なのか?いえいえ、MT免許を取得した経験は決して無駄ではありません。
車の構造理解や運転に対する集中力、判断力など、MTならではの学びがあったはずです。
むしろその価値を知っているからこそ、今後の制度改正や自動車業界の変化に、もっと多くの人が関心を持つべきなのではないでしょうか。
まとめ
2025年4月の法改正は、MT免許を正式に廃止したわけではありませんが、教習所での取得環境を大きく変化させ、「実質的な廃止」に近い状況を生み出しました。
今後MT免許は、普通免許とは別の専門資格として、中型・大型免許のような業務用途向けライセンスへと再編されていく可能性もあります。
この変化は、単なる制度変更ではなく、日本社会全体の車文化が大きな転換点を迎えている証拠でもありますね。
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