ゲーム機が軍事技術に転用される可能性があると聞いて、驚かれる方も多いのではないでしょうか。
実は、2000年に発売されたソニーの「プレイステーション2(PS2)」は、その高性能ゆえに軍事利用の懸念があり、輸出規制の対象となってしまいました。
一体、PS2のどのような点が問題視されたのでしょうか…?
今回は、PS2の高性能ぶりと輸出規制に至った背景について紹介します。
プレイステーション2(PS2)が輸出規制になった理由
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PS2は、初代プレイステーションの後継機として2000年3月に日本で発売されました。
当時「39,800円」という価格設定ながら、今までの家庭用ゲーム機やパソコンを凌駕する性能を備えていたのです。
PS2の心臓部である「Emotion Engine(エモーションエンジン)」は、128ビットのCPUで、294MHzのクロック周波数で、このプロセッサは、毎秒6.2ギガフロップスの浮動小数点演算能力を誇り、複雑な3Dグラフィックスの処理や物理シミュレーションを可能にする高性能CPUを搭載、この性能は当時のハイエンドパソコンに匹敵するものでした。
グラフィックス処理を担当する「Graphics Synthesizer(グラフィックスシンセサイザー)」は、147.5MHzで動作し、4MBの組み込みDRAMを搭載、このGPUは、毎秒7500万ポリゴンの描画能力を持ち、リアルタイムで高品質な3Dグラフィックスを表示することができ、この性能も当時の最新パソコン用グラフィックスカードに匹敵するものでした。
さらに、PS2はDVD-Videoの再生機能を標準搭載しており、ゲーム機としてだけでなく、家庭用DVDプレーヤーとしても利用できました。
当時、単体のDVDプレーヤーが数万円する中、PS2は高性能なゲーム機能とDVD再生機能を兼ね備えたコストパフォーマンスの高い製品として注目を集めたのです。
軍事転用の懸念と輸出規制
PS2の高性能なハードウェアは、ゲーム開発者やユーザーから高い評価を受けましたが、その一方で軍事転用の可能性が指摘されたのです。
■高い浮動小数点演算能力
PS2のCPUである「Emotion Engine」は、高速な浮動小数点演算能力を持ち、複雑な計算を短時間で処理することが可能でしたが、この性能が、ミサイルの弾道計算や暗号解析など、軍事用途にも応用できると考えられたのです。
■リアルタイム3Dグラフィックス処理
「Graphics Synthesizer」による高性能な3Dグラフィックス処理能力は、軍事シミュレーションや訓練プログラムなどでの活用が想定され、リアルタイムで高精度なシミュレーションを行うことで、軍事作戦の計画や訓練の質を向上させる可能性があるとみられました。
■複数台の連携による高性能計算機の構築
PS2は、ネットワークを介して複数台を連携させることが可能であり、これにより高性能な並列計算システムを構築できるとされ、この特性が、スーパーコンピュータの代替として軍事研究や開発に利用される懸念が考えられたのです。
これらの理由から、PS2は日本の「外国為替及び外国貿易法」に基づき、「通常兵器関連汎用品」に指定されました。
具体的には、輸出申告価格が5万円を超える場合、他国への持ち出しや輸出には当時の通商産業大臣の許可が必要とされ、39,800円のPS2は事実上2台以上の持ち出しには許可が必要となり、輸出規制の対象となったのです。
実際の軍事転用事例とその後の影響
PS2の高性能ぶりは、実際に軍事分野での活用が試みられた事例もあります。
例えば、アメリカのイリノイ大学国立スーパーコンピュータ応用研究所(NCSA)は、PS2を複数台連結し、理論上毎秒5000億回の演算が可能なクラスターシステムを構築することに成功しました。
また、北朝鮮がPS2を大量に輸入し、ミサイル開発に利用したとの報道もありましたが、具体的な証拠は明らかになっていません。
しかし、これらの事例は、民生用製品が軍事技術に転用される「デュアルユース(Dual Use)」の問題を浮き彫りにしました。
PS2の輸出規制は、日本政府が軍事技術の流出を防ぐための措置として行われましたが、これは民生用製品が国家安全保障上のリスクを伴う可能性があることを示す重要な事例です。
まとめ
PS2は単なるゲーム機にとどまらず、その圧倒的な性能が軍事転用の可能性を指摘されるほどの影響力を持つハードウェアでした。
結果として、輸出規制の対象となり、一部の国では持ち出しに制限がかかるほどでした。
現在でも、PS2は「史上最も売れたゲーム機」として記録されており、その伝説的なスペックと影響力は、今後も語り継がれていくことでしょう。
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