医師免許がないのに16人以上を手術し、全員を救った男がいるとしたら…あなたはその人を「犯罪者」と呼べますか?
20世紀最大のなりすまし詐欺師として知られる「フェルディナンド・ウォルド・デマラ・ジュニア」。
その名を聞いたことがなくても、彼の生き様を知れば、あなたは詐欺の意味について、今一度考えさせられるはず…。
世界を驚かせた「偽医者」が実在

1940年代〜50年代、アメリカに「何にでもなれる男」が実在しました。
彼の名は「フェルディナンド・ウォルド・デマラ・ジュニア」。
見た目は、一見すると太めで物静かな男性でしたが、彼の正体は30以上の偽職歴を持つ「変装の達人」でした。
しかも、ただなりすましただけでなく、「大学教授、修道士、刑務官、医師」など、どれも本職顔負けの成果を残していたというから驚きです。
その中でも特に有名なのが、朝鮮戦争中にカナダ海軍の軍医に成りすまし、無免許で数々の手術を成功させたという伝説です。
医療知識ゼロから軍医へ!すべては1冊の医学書から始まった
当時20代だったデマラは、医師である友人の名前と学歴を勝手に使用し、カナダ海軍の軍医に就任します。
今ほど厳密な身元確認が行われていなかった時代とはいえ、完全な偽装でありながら、軍医として現場に配属されたこと自体がすでに異常です。
さらに衝撃なのはその後です…。
朝鮮戦争中、彼が乗る艦に負傷兵が多数運び込まれ、手術を担当できるのは、偽軍医デマラただ一人という状況になっていました。
普通なら逃げ出したくなるこの窮地に、デマラは医務室にこもり、医学書を読み漁るという異常行動に出ます。
一晩で手術技術を頭に叩き込んだ彼は、なんと16人以上の手術を行い、全員を救うという奇跡を成し遂げたのです。
なぜこんなことができたのか?デマラの天才的才能
では、彼はなぜ?無謀な偽装で命を救うことができたのでしょうか?
その理由には、彼が持ついくつかの異常な才能が関係しています。
- 天才的な記憶力|いわゆる「瞬間記憶(フォトグラフィックメモリー)」を持ち、書籍の内容を短時間で理解・記憶できた
- 高い理解力と応用力|知識をただ記憶するのではなく、実践に活かせる応用力も兼ね備えていた
- 人を惹きつける魅力と自信|偽装を疑われない堂々とした態度と、まるで本物のような振る舞い
周囲の人々も、彼を「一目置く優秀な軍医」だと信じて疑わなかったといいます。
詐欺師は英雄なのか?その結末
手術後、艦内での彼の評判はうなぎ登りに信頼を得ました。
命の恩人として称えられ、英雄軍医として注目されていたそのとき、本物のジョセフ・C・シリア医師が新聞を通じて告発し、すべてが明るみに出ます。
当然、軍からは除籍されます。
社会的にも非難されるかと思いきや、「彼がいなければ私は死んでいた」「むしろ感謝している」といった声が多く、世間の反応は意外にも好意的だったのです。
この出来事はのちに映画『The Great Impostor(邦題:偉大なる詐欺師)』として映像化され、主演トニー・カーティスが彼の生涯を演じています。
デマラはその後もいくつかの偽装を繰り返しましたが、次第に身元がバレることが多くなり、晩年は本名で修道士として教会に仕え、静かに人々を支える人生を送ったと言います。
まとめ
フェルディナンド・ウォルド・デマラ・ジュニアの生き方は、私たちに「正義と悪の境界線」を問います。
彼は単なる詐欺師なのか、それとも覚悟を持ったヒーローの偽装だったのか…?
現代においても、肩書きや資格だけで人を判断することの危うさは変わりません。
本物とは何か?彼の人生が投げかけた問いは、いまも色あせることなく、私たちの価値観を静かに揺さぶり続けているでしょう。
あわせて読みたい|マタイク(mataiku)