もし、世界がすべて白黒だったら…?
青空も緑の森も色の違いがわからないとしたら…実はそんな世界で生きる人々が実在します。
それがミクロネシアにある小さな島「ピンゲラップ島」。
実に島民の約1割が色を見分けられない完全色盲を抱えて生活しているのです。
なぜそんな特殊な遺伝子が「ピンゲラップ島」に集中しているのでしょうか?
色盲が1割を占めるピンゲラップ島とは?

太平洋の西部に浮かぶミクロネシア連邦、この国のポンペイ州に属する「ピンゲラップ島」は、世界的にも極めて珍しい遺伝現象を抱えた島として知られています。
この島に暮らすわずか250人ほどの住民のうち、およそ10%、つまり10人に1人が先天的な色覚障害、なかでも最も重度な「完全色盲(一色覚)」を抱えて生活しています。
完全色盲とは、青・赤・緑といった色の区別がまったくできず、白黒写真のような世界の状態です。
一般的にこの状態は「ロッドモノクロマシー(Rod monochromacy)」と呼ばれ、非常に稀な遺伝疾患とされています。
通常、この症状を持つ人は10万人に1人程度と言われていますが、ピンゲラップ島ではその比率が桁違いなのです。
なぜこの島に完全色盲が多いのでしょうか?
その答えは、今から約250年前、18世紀末にさかのぼります。
1775年頃、ピンゲラップ島は未曾有の大型台風に襲われ、島の住民は壊滅的な被害を受けました。
数百人いたとされる島民のうち、生き残ったのはわずか20人程度だったと伝えられています。
ここに、「創始者効果(Founder Effect)」と呼ばれる遺伝現象が関係してきます。
生き残った20人のうちの1人、あるいは数人が「CNGB3」という遺伝子に変異を持っていたと考えられています。
この遺伝子の異常こそが完全色盲の原因なのです。
その後、島が孤立していたことや、限られた集団内での婚姻が繰り返されたことで、変異遺伝子が次第に広まり、結果として島民の約1割がこの状態を抱えるまでになりました。
ピンゲラップ島では、色を認識できない人たちが特別扱いされることはありません。
むしろ、夜間に目がよく見えるという特性から、夜の漁に重宝されることもあり、島の生活の中に自然と馴染んでいます。
このように完全色盲を持つ人、少数派ではなく日常に溶け込んでいる社会は世界的にも非常に稀です。
また、この島の事例は医学や人類学の研究対象としても注目されています。
神経学者オリバー・サックスの著書『The Island of the Colorblind(邦題:色のない島)』では、ピンゲラップ島の一色覚の人々との出会いや、その文化的・生物学的な考察が深く描かれており、学術的にも非常に価値のある資料とされています。
色の概念が希薄な環境で育つことで、言語や認知、感性までもが異なる形で発達する可能性があるという点も多くの学者を惹きつけてやみません。
まとめ
ピンゲラップ島における色盲の多発は、偶然の災害と遺伝的な偶発が引き起こした「自然の遺伝実験」とも言える現象です。
この島では、色の見えない人々が社会に受け入れられ、共に生きる環境が当たり前のように存在しています。
私たちが「普通」だと思っている感覚が、いかに環境や文化によって変化するのか、ピンゲラップ島はそのことを私たちに静かに問いかけてくれるのです。
あわせて読みたい|マタイク(mataiku)