ウサギって癒し系の動物じゃないの?そんなイメージがひっくり返る出来事が、実は今も続いているって知っていますか?
オーストラリアでは、ウサギが150年以上も国土を侵食し、生態系を壊し続ける侵略者として扱われています。
「えっ、そんなバカな…」とおもいますよね…これは作り話でも都市伝説でもなく、れっきとした現実なのです。
たった24匹が招いた大惨事、ウサギが生態系を破壊するまで

うさぎ戦争の発端は、1859年、イギリス出身のトーマス・オースティンという男性が、狩猟目的で24匹のヨーロッパアナウサギをオーストラリアの自宅庭に放したことから始まります。
最初はごく限られた空間でのレクリエーションでしたが、数匹のウサギが庭を脱走し野生化、これがオーストラリア全土を揺るがす「ウサギ戦争」の火種となったのです。
オーストラリアは温暖な気候で草食動物の食料が豊富、しかもウサギにとっての天敵がいない理想的な環境でした。
1年に何度も出産できるウサギたちは、あっという間に数百万匹、やがて10億匹近くまで個体数を爆発的に増加させていきます。
そして、彼らがもたらした被害は以下の通り深刻でした。
- 農作物を食い荒らす
- 木の根を掘り返し、土壌をボロボロに
- 草原を裸地化し、他の草食動物の食料を奪う
- 肉食動物も餌が減って数を減らし、生態系が崩壊
つまり、可愛らしい見た目の裏に潜むのは、国土と自然の破壊者としてのウサギの姿だったのです。
ウサギ戦争において人類がした対策
「フェンス作戦」数千キロの壁で侵入を防げ!
ウサギによる農業被害と自然破壊に頭を悩ませたオーストラリア政府は、1901年から本格的に「物理的にウサギの移動を防ぐ」という作戦に乗り出しました。
その代表例が、あまりにも有名な「Rabbit-proof Fence(ウサギ除けフェンス)」。
その全長はなんと3250km以上に及び、オーストラリア大陸を南北に横断するほどの規模でした。
これは、地球上でもっとも長いフェンスとされる壮大なインフラプロジェクトで、建設当初は「これでウサギの拡散は防げる」と大きな期待が寄せられました。
しかし、ウサギの生命力はその想像を超えていたのです。
彼らはフェンスの下を掘り進めたり、隙間をすり抜けたりして侵入し、フェンスによる完全な封じ込めには至らなかったのです。
しかもこのフェンス、維持費も高く、労働力も必要、莫大な国家予算と人員を投じたにもかかわらず、ウサギの勢いを完全に止めることはできず、「努力に対して効果が薄すぎる」と批判される結果となりました。
「天敵作戦」キツネを放したら大惨事に
フェンスが効果を上げなかったことで、政府は次に「自然界の力を借りる作戦」に方針を転換します。
「ウサギの天敵を人工的に導入すれば、食物連鎖の力で数を減らせるはずだ」という理屈で、19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパアカギツネを各地に放ちました。
ところがこれが大失敗…。
キツネは確かにウサギを狙いますが、ウサギは非常に俊敏で地中にもぐるため、狩りが難しい。
その結果、キツネはより捕まえやすい獲物、つまりオーストラリアの在来動物(有袋類や鳥類など)をターゲットにし始めたのです。
キツネは環境への適応力も高く、結果的に在来種の減少と絶滅を加速させる結果になってしまいました。
むしろ「ウサギ以上に厄介な外来種」として新たな問題を生み出します。
特にオーストラリア特有の生物であるビルビーやバンディクートなどの小型有袋類が大量に犠牲になり、環境破壊がさらに進行したのです。
自然のバランスを人為的に操作することのリスクが、まさにこの事例で露呈したといえるでしょう。
「生物兵器作戦」ウイルスを使ったウサギ殲滅計画
物理的防御(フェンス)も自然の力(天敵)も失敗に終わった人類は、ついに「生物兵器」という最終手段に手を出します。
1950年代、オーストラリア政府が選んだのは、ウサギにしか感染しない「ミクソマウイルス」の利用でした。
このウイルスは、ウサギに感染すると皮膚に腫瘍ができ、視力を失い、食事ができなくなって死に至るという非常に強力な病原体です。
この作戦は当初、まさに劇的な効果を発揮、ウサギの個体数は地域によっては90%〜99%も激減し、「ついに人類が勝った」と騒がれました。
しかし、自然はそう簡単には終わらせてくれません。
生き残ったウサギの中に、ウイルスへの耐性を持つ個体が現れたのです。
これにより、再びウサギは増殖を始め、「ウサギ戦争」は第2ラウンドへと突入しました。
さらに、ミクソマウイルスに感染したウサギの姿が残酷すぎるという批判もあり、倫理的な問題も浮上、科学と倫理のバランスが問われる時代へと移っていきます。
「RHDV(ウサギ出血病ウイルス)」第二のウイルス兵器投入
1990年代になると、再びウイルス兵器が登場します。
それが「RHDV(Rabbit Haemorrhagic Disease Virus:ウサギ出血病ウイルス)」です。
このウイルスはミクソマウイルスよりも致死性が高く、感染後は数日以内にウサギが出血多量で死ぬという、まさに瞬殺系のウイルスです。
最初は限定的な地域で試験的に使用される予定でしたが、なんとテスト中に自然流出してしまい、爆発的に広まったという経緯があります。
結果としてオーストラリア全土で効果を発揮し、再びウサギの数を劇的に減らすことに成功しました。
ただしこのウイルスにも、やがて耐性を持つウサギが現れ、再び個体数が増加します。
さらに、ウサギの密輸やペット化によって新たな感染源が広がるなど、制御が非常に難しくなっているのが現状です。
現在の「ウサギ戦争」はどうなっている?
2020年代の今でも、オーストラリアではウサギの生息数と農業被害が問題となっており、ウイルス管理や監視活動が継続中です。
環境保護団体や政府機関は、ウサギの被害が広がらないよう、定期的にモニタリングを行い、必要に応じてウイルスの再投与や捕獲活動を実施しています。
また、現在では遺伝子操作や不妊化ワクチンなど、次世代型の対策も検討中、ただし倫理的な議論も伴い、簡単には進まないのが現状となっています。
まとめ
「ウサギ=かわいい」というイメージは、たしかに間違いではありません。
しかし、異なる環境に放たれた時、その存在が生態系を破壊する脅威になり得るという事実は、私たちが自然との付き合い方を考える上で重要な教訓を与えてくれます。
ウサギ戦争は、過去の話ではありません。
今もオーストラリアで続いている「終わらない戦争」なのです。
この出来事から、人間が自然に与える影響の大きさ、そしてバランスの大切さを、改めて考えてみるきっかけにしてはいかがでしょうか。
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