かつて「庶民のカレー」として親しまれてきた、カレーハウスCoCo壱番屋(通称ココイチ)、2024年8月には過去最大規模となる平均10.5%の値上げを実施し客数の減少が加速しました。
一方で売上高や営業利益は過去最高を更新しており、経営面ではむしろ成果を上げています。
果たして、この値上げは失敗なのか、それとも戦略的な成功なのでしょうか?
繰り返された値上げの歴史
ココイチは物価高騰や人件費上昇を背景に、ここ数年で何度も価格改定を行ってきました。
2022年6月にはベースカレーを5.9%(+33円)、同年12月には7.4%(+44円)値上げ、しかしこの段階では客単価の上昇に対して客数の落ち込みは軽微で、大きな反発は見られませんでした。
潮目が変わったのは2024年8月、ベースカレーやトッピング類を対象に平均10.5%(+43〜76円)という大幅改定に踏み切ったのです。
この瞬間から、ココイチの顧客動向は明らかに変化していきました。
顧客離れの現実
値上げ直後から顧客数は急速に減少、2024年9月〜2025年2月の下期累計で客数は前年同期比マイナス5.2%、2025年3〜5月も前年割れが続き、6月には前年比マイナス11.4%という深刻な落ち込みにまで達しました。
この背景には「気軽に入れる庶民派カレー」という従来のイメージとの乖離があり、SNS上では「カレーが1200円は高すぎる」「地方では割高感が強すぎる」といった声が噴出します。
さらに地域別価格が廃止され全国一律価格となったことで、所得水準が相対的に低い地方の顧客ほど不満を募らせる結果となりました。
売上と利益の逆転現象
一方で、経営面においては意外な展開が見られます。
客数が減少したにもかかわらず、客単価の上昇によって売上高と営業利益は過去最高を更新したのです。
2025年3〜5月期の国内売上は全店ベースで224億900万円と前年同期比+4.0%、既存店でも+3.6%と成長を維持しました。
経営的には「値上げで客単価を高め、客数減をカバーする」という王道戦略が成立しており、専門家からは「値上げ巧者」との評価もあります。
ただしこれは短期的な成功であり、長期的にはコアファンの離反やブランド価値の低下を招くリスクをはらんでいます。
海外市場と再生への挑戦
国内以上に厳しい状況にあるのが海外市場、とりわけ中国です。
2025年3〜5月期の海外売上は44億1800万円で前年同期比マイナス1.8%、出店が1店舗に対し、退店は7店舗と大幅な縮小が進んでいます。
不動産不況の影響もあり、単価の高いカレーは中国の消費者には受け入れられにくいのが現状です。
こうした逆風の中でも、ココイチは再生策を模索しています。
UberEatsでのキャンペーン、テレビCMの積極展開、さらに2025年6月からはアプリ会員向けに外れなしの「トッピング無料クーポン」キャンペーンを開始。
店舗の約9割を占めるフランチャイズ網を支える「ブルームシステム」により、オーナー候補を育成し、強固な経営基盤を維持している点も強みです。
まとめ
ココイチの値上げは、庶民派カレーから高級路線へのシフトを象徴する出来事でした。
短期的には客数減少を招き「過去最大級の客離れ」と報じられましたが、その一方で売上・利益は過去最高を記録するという逆転現象を生み出しました。
とはいえ、このまま値上げを繰り返せばコアファンが離れ、ブランドイメージが揺らぐ危険性があります。
日本の外食市場において「国民食カレー」の座を守り続けられるのか、それとも高価格化によって新たな方向性を模索するのか──。
ココイチの今後の動向は、外食産業全体にとっても大きな注目点となりそうです。
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