最近の若者の言葉遣いは乱れている…いつの時代もそんな声を耳にしますよね。
実は、こうした嘆きは現代に限った話ではなく、江戸時代の人々も同じように若者の言葉に首をかしげていました。
当時の町人や歌舞伎者、遊郭に通う人々の間では、仲間内でしか通じない流行語や隠語が生まれ、それが現代日本語の基盤となっているものも少なくありません。
今回は、江戸時代の言葉とその後の言葉の変遷について紹介します。
江戸に根付いた若者言葉と古語の継承
江戸時代にも、現代でいうスラングや流行語が存在していました。
たとえば「ビビる」は、平安時代から鎧同士がぶつかる「ビンビン」という音に由来し、驚きや恐怖を意味していました。
現代の「ビビった!」という表現は、この長い歴史を経て受け継がれたものです。
また、「ムカつく」も当時から存在しており、元々は「胸やけでムカムカする」という身体的な不快感を指す言葉でしたが、江戸の町人文化の中で心情的な苛立ちを示す表現へと変化していきました。
さらに注目すべきは「ヤバい」という言葉です。
語源は「矢場」と呼ばれる射的場で、隠れて博打が行われており、「取り締まりが入る危険な場所や状況」を「ヤバなこと」と呼んでいたのです。
ここから「危険」という意味が定着し、やがて現代では「すごい」「最高」といった肯定的なニュアンスまで持つようになりました。
つまり、今の若者が「この映画、ヤバい!」と言うとき、そのルーツには江戸の博打場が隠れているのです。
歌舞伎者と町人文化が生んだ隠語
江戸の言葉遊びの背景には、歌舞伎や遊郭といった娯楽文化が大きく関わっていました。
役者や遊び人たちは、仲間内だけに通じる言葉を作り出し、それが若者文化として広まっていったのです。
たとえば「マジ」という言葉、現代では「本気」「本当に」という意味で頻繁に使われますが、江戸時代にはすでに「真面目(まじめ)」の略語として存在していました。
つまり「マジで!」という感嘆は、すでに江戸の若者も口にしていたのです。
また、遊郭に通う際に使われたのが「チョキる」という言葉、これは「猪牙舟(ちょきぶね)」と呼ばれる小舟に乗って吉原へ向かうことを指していました。
歩くのではなく舟に乗ることを洒落て「チョキる」と言い、当時の遊び人たちの間で定着していたのです。
そのほか、感謝を表す「かたじけない」をもじって「かたじけなすび」と言ったり、「ありがたい」と思ったときに「ありがた山」と語尾を変えて遊んだりする表現、現在放送中の大河ドラマ『べらぼう』でもよく出てくる言葉ですね。
意味自体に深いものはありませんが、ノリやユーモアで言葉を面白く変えるのは、まさに現代の若者言葉そのものといえるでしょう。
大人の嘆きは昔も今も同じ
江戸時代の大人たちも、こうした若者の言葉に対して「わけの分からない言葉を使う」「言葉が乱れている」と眉をひそめてたそうです。
ですが、実際にはこれらの新しい表現が人々の文化を豊かにし、後世へと受け継がれています。
「ヤバい」「マジ」「ビビる」などはその代表例で、江戸期からの変遷を経て現代でも日常的に使われています。
大人にとっては理解しがたい若者言葉も、やがては定着し日本語の一部として残っています。
言葉は常に進化し続け、時代ごとの文化や価値観を映し出す鏡でもあります。
つまり「最近の若者の言葉遣いは…」という不満は、言葉が生きている証拠であり、未来に向けた日本語の成長過程に他なりません。
まとめ
江戸時代にも現代と同じように、若者たちは新しい言葉を生み出し、そうした言葉の多くは文化の中に根付き現代の私たちが使う日常語へと変化しています。
「ヤバい」「マジ」「ビビる」などはまさにその代表例であり、今の若者が使う流行語もまた、未来の日本語を形づくる一部となるでしょう。
言葉は時代とともに変わり続ける…それは江戸も現代も変わらない、日本語の面白さですね。
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