かつて「未来の乗り物」として脚光を浴びたセグウェイ、テレビやニュースで見かけて「一度は乗ってみたい」と憧れた人も多いのではないでしょうか。
あのスティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾスも絶賛したほどでしたが、いまや街で見かけることすらほとんどありません。
一体なぜ、これほどまでに注目された乗り物が、静かに消えていったのでしょうか…?
セグウェイが「世界を変える乗り物」になれなかった理由

2001年の登場時、セグウェイは直感操作、ゼロエミッション、新しい移動のカタチとして、世界中で注目されました。
実際にスティーブ・ジョブズは「街の構造が変わる」とまで語り、まさに時代を変える発明として期待されていたのです。
しかし現実は理想とは裏腹でした。
まず最初に立ちはだかったのは価格の高さ、当時の販売価格は日本円でおよそ70〜100万円、高性能なバイクや中古車が買えてしまう価格で、「面白そう」以上の動機がない限り手が出せない価格帯です。
さらに、日本を含む多くの国での道路交通法の壁も大きな障害になります。
セグウェイは「原動機付自転車」として扱われ、公道ではナンバーやヘルメットが必要となり歩道の走行は禁止、つまり、「どこで乗ればいいのか分からない」乗り物だったのです。
加えて、操作の難しさと安全性への懸念も普及を妨げました。
体重移動だけで進むという操作は直感的ではあるものの、慣れるまでにコツが必要で転倒や事故のリスクも…実際アメリカではブッシュ大統領が転倒したり、セグウェイ社のオーナーが事故死するなど、ネガティブな報道が続きました。
つまり、注目を浴びた見た目や技術とは裏腹に、価格・法律・操作性のすべてでハードルが高く、「日常に根付かない乗り物」になってしまったのです。
電動キックボードという現実的な後継者の登場
セグウェイが普及しきれない間に台頭してきたのが、電動キックボード(e-scooter)です。
こちらは1台数万円で買える手軽さ、折りたたみ可能な軽量性、そしてデザインもシンプルで生活空間に溶け込みやすい、まさに今の暮らしに合ったモビリティとして登場しました。
シェアリングサービスとの相性も抜群で、海外ではUberやLyftなどのライドシェア企業がモビリティ戦略の一環として導入、欧米・アジアの都市部で一気に普及しました。
実はこの電動キックボードがスムーズに受け入れられた背景には、セグウェイが切り拓いた法整備の道があります。
ドイツなどの国では、セグウェイが通行できるよう自転車道の走行を認めるなどの法改正が行われ、後発のキックボードはその流れに乗るだけで済んだのです。
結果として、より安く・扱いやすく・法的にも通しやすいキックボードがセグウェイの座を奪い、「パーソナルモビリティの主役」は交代していきました。
つまり、セグウェイが失敗したのではなく、次世代に場所を譲っただけとも言えるのです。
ナインボットで生き続けるセグウェイのDNA
セグウェイという名前は消えていったものの、技術や思想が完全に失われたわけではありません。
2015年、セグウェイは中国のスタートアップ企業のナインボット(Ninebot)に買収され、新たな展開を始めました。
ナインボットは、セグウェイのバランス制御技術を活用し、電動二輪車やキックボード、ゴーカートなどを次々と開発、中でも「S-PRO」などの製品は、アプリを通じて速度制限や機能を段階的に解除できる仕組みを採用しており、体験と課金を連動させたビジネスモデルが特徴です。
また、スマホアプリを通じてユーザーの走行データを収集し、パーソナライズされたプロモーションを行うなど、まさに「IT×製造業」の象徴的企業に進化しています。
ナインボットは今やグローバルなスマートモビリティ企業として台頭し、「セグウェイの失敗を糧に、次の時代を創っている」とも言える存在なのです。
まとめ
セグウェイはなぜ消えたのか?という問いの答えは、単純な失敗ではなく、複合的な現実との不一致にあります。
しかしその技術は、今もナインボットのプロダクトの中に生き続けており、むしろ時代を早く歩きすぎた成功の種だったとも言えるでしょう。
セグウェイが切り開いた道は、決して無駄ではありませんでした。
むしろそれは、今の私たちが自然に使っているスマートモビリティを支える、見えないインフラそのものだったのです。
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