年々厳しさを増す日本の夏、気温30度超えが当たり前になり、湿度も高く熱中症のリスクはかつてないほど深刻になっています。
そんな中、2025年6月1日から「職場における熱中症対策」が法的に義務化されたのをご存知でしょうか?
これはすべての企業に関係がある話です。
今回の改正は、“やっているつもり”では通用しない、命と法令の両方にかかわる重大なルールになっています。
法改正の背景にある異常な夏と増え続ける職場の死傷者

ここ数年、熱中症による労働災害は深刻化しています。
2024年には職場での熱中症により1,257人が被災、31人が命を落としたと厚生労働省は発表しています。
特に注目すべきは、死亡災害のうち約97%が初期症状の見逃しや対応の遅れによるものだったという点です。
従来の労働安全衛生規則では「水や塩を備えること」など、漠然とした対応しか義務化されておらず、熱中症を未然に防ぐ仕組みにはなっていませんでした。
そこで今回、労働安全衛生規則の省令が改正され、より具体的な「義務」として施行されるに至ったのです。
どんな職場が対象?
熱中症って外で働く人だけの問題でしょ?と思いがちですが、それは大きな誤解です。
今回の法改正では、対象となる作業環境や業種が明確に定義されています。
■ 対象作業の条件
- 暑さ指数(WBGT)28℃以上 または 気温31℃以上
- その環境下で連続1時間以上、または1日4時間超働くことが見込まれる場合
この条件に該当する場合、屋内・屋外、業種を問わずすべての事業者に義務が発生します。
たとえば、空調の効かない倉庫、製造ラインの作業場、真夏に外回りをする営業職、現場に常駐する警備員、イベントスタッフなど、あらゆる職場が対象になり得るのです。
特に都市部では、WBGT28℃を超える日が6〜10月の4か月間で86日あったというデータもあります。
つまり、夏の半分以上は義務発動期間ということになるのです。
企業が取るべき3つの義務とは?
今回の法改正により、対象作業を行う企業には3つの熱中症対策が義務づけられます。
① 報告体制の整備(=見つける)
- 「体調が悪い」と申し出る仕組みの整備
- 異変に気づいた人が報告するルートの明確化
- バディ制度(2人1組で作業)や職場巡視、ウェアラブル端末による体調モニタリングの導入も推奨
② 実施手順の作成(=判断する)
- 暑熱環境からの離脱、身体冷却、医療機関への搬送などの緊急対応マニュアルを整備
- 緊急連絡網や救急連絡先の周知
- 「救急車を呼ぶか迷ったら#7119に連絡」といった行動指針も明文化
③ 関係者への周知(=対処する)
- 作業者だけでなく、管理者や間接部門も含めた全員への教育・訓練
- 朝礼や社内掲示板、eラーニングを活用した継続的な情報提供
- 熱中症予防管理者を選任し、現場におけるリーダーとして対応する体制づくり
これらはすべて、実際の現場に即した文書化と共有が必須です。
「熱中症になったら自己責任」とは、もはや通用しません。
もし企業がこれらの義務を怠った場合、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
つまり、「やっていない」ことが発覚した時点で、労働基準監督署から是正指導や処分が入るリスクがあるのです。
さらに、重大な事故が発生した場合には、企業の社会的信用失墜や人命損失という深刻な結果につながります。
単に法令対応というだけでなく、「職場全体で命を守る文化を育てる」ことが、企業にとっての責任でもあり、リスクマネジメントの基本とも言えるでしょう。
まとめ
今回の法改正は、異常気象が常態化した現代社会における命を守るための当たり前の一歩です。
冷房の効いた事務所でも、体調不良の報告がしづらい雰囲気があればリスクは高まります。
現場だけでなく、組織全体の意識と仕組みを見直すことが求められているのです。
これから迎える本格的な夏、あなたの職場は、熱中症対策が「できている」ではなく、「機能している」と言える状態でしょうか?
今こそ、職場全体で熱中症へ真剣に向き合うタイミングではないでしょうか…。
あわせて読みたい|マタイク(mataiku)