介護施設といえば、リハビリや入浴、食事介助を受けながら穏やかに過ごす場所というイメージがありますよね。
しかし、近年全国に広がりつつある「カジノ風介護施設」は、その常識を覆す存在として注目されています。
高齢者が本気でブラックジャックに挑む光景、まるでリアルなカイジの世界を彷彿とさせるその裏には、意外なまでのリハビリ効果と人生を再び輝かせる仕掛けがあったのです。
カジノ型介護施設「ラスベガス」とは?
ラスベガスと聞いて多くの人が思い浮かべるのはアメリカのカジノの街ですよね。
しかし、日本各地で展開されているデイサービス施設「ラスベガス」は、まさにその名の通り、カジノの世界観を介護に取り入れた画期的な施設なんです。
この施設では、要介護認定を受けた高齢者が通所し、ブラックジャックや麻雀、カードゲーム、パチンコといったカジノ風のレクリエーションを日々楽しんでいます。
もちろん、金銭を賭けるわけではなく、施設内通貨(例:ベガスポイントやシード)を使って遊ぶスタイルです。
その通貨はリハビリを頑張ることで獲得できる仕組みとなっており、努力すれば報われるという達成感が得られるよう設計されています。
参加者はただ座っているだけではゲームに参加できません。
まずは、ベガストレッチと呼ばれる体操を全員で行うことが義務付けられており、運動がカジノへの入場料とも言えるのです。
遊びのようでいて、しっかりと身体機能の向上に繋がる導線が張り巡らされています。
楽しみながら脳を活性化
なぜ高齢者がここまで熱中するのでしょうか?その理由は「感情の揺れ動きこそ、最高の認知トレーニング」だからです。
例えばブラックジャックで勝てば歓喜、負ければ悔しさ、そうした「本気で悔しがったり喜んだりする体験」は、感情・記憶・判断を司る脳領域を活性化させます。
医師も「勝敗を意識するゲームが日常的に行われることで、認知レベルが一時的にでも引き上がり、それが繰り返されれば認知症予防にも繋がる」と指摘しています。
実際、通所する男性の中には「要介護度が4から3に改善した」という実例もあるようです。
別の利用者は、日常生活での物忘れが減り、曜日や予定を自分で把握できるようになったとも語ります。
遊びとリハビリが両立し、自尊心も保たれるこの仕組みは、従来の受け身型介護では難しかった自発性の喚起に成功していると言えるでしょう。
「私と家にいるより、ラスベガスの方が楽しそう」、これはある利用者の妻の言葉です。
この施設はただゲームを提供しているだけではありません。
送迎車は黒のハイヤー風デザイン(1BOX)にするなど、利用者のプライドにも最大限配慮されています。
「介護施設に通っていることを近所に知られたくない」という声から生まれた工夫ですが、こうした細やかな配慮が利用者の心をつかんでいます。
また、食事も10種類以上のメニューから選択可能とし、介護施設にありがちな画一的な生活からの脱却を実現しています。
利用者の中には、長年パーキンソン病の妻を介護するために自分を後回しにしてきた高齢男性もおり、「ここに通うことでリフレッシュできる。妻もそれを喜んでくれている」と語っています。
介護する側・される側の双方にとって、生活の質(QOL)を向上させる新しい場として機能しているのです。
依存リスクは?懸念と専門家の見解
ゲームばかりさせて依存にならないのか?という声も当然あります。
しかし、専門家は「囲碁や将棋と同様で、認知的・感情的刺激が得られる知的レクリエーションであり、依存リスクは極めて低い」と指摘しています。
実際にこの施設では、開設以降5000件を超える契約があったにもかかわらず、依存の症例は1件も報告されていません。
なにより重要なのは、ゲームへの参加には運動という前提条件があり、節度ある時間配分と設計がなされていることです。
ゲームを提供するのではなく、リハビリ・食事・コミュニケーションとセットになった一連の生活の中で楽しむことができるよう構成されています。
まとめ
カジノ風介護施設は、一見すると突飛な取り組みに見えるかもしれません。
しかしその実態は、高齢者の「生きがい」や「自立心」を引き出す巧妙な仕組みに満ちた福祉の新しい形です。
介護という言葉にネガティブな印象を持つ人も少なくありません。
ですが、こんなに明るく、前向きで、自発的に通いたくなる介護施設があるという事実は、私たちが老後をどう生きるかのヒントになるはずです。
人生100年時代、年を重ねたからこそもう一度火がつく情熱がある、そんなリアルカイジな世界が今、介護の現場で広がりつつあります。
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