団地の真下に地下鉄の車庫がある?そんなSF映画のような世界が、実は東京都内に存在しているのです。
高層団地の足元には車両が整然と並ぶ鉄道基地、そんな不思議な光景が日常として共存するのが、板橋区・西台にある「都営西台アパート」と「志村車両検修場」です。
どうしてこんな構造に?と誰もが思うこの場所には、昭和から続く都市計画の工夫と東京の住宅事情が色濃く反映されています。
衝撃の立地「西台アパート」

東京都板橋区、都営三田線の西台駅を降りると、まず目に飛び込んでくるのが巨大な高層団地群、これが通称「都営西台アパート」で、1970年代の公営住宅ラッシュの中で建設されたものです。
一見すると何の変哲もない団地ですが、最大の特徴はその真下に都営三田線の車両基地「志村車両検修場」があることです。
団地の足元には人工地盤が広がり、その地盤の下には車両の整備や留置に使われる線路が18線も敷かれた広大な車庫が存在します。
都内の住宅地にこのようなインフラが共存している場所は非常に珍しく、まさに東京の異世界スポットと言えるでしょう。
志村車両検修場の敷地はなんと約13万7000㎡(東京ドーム約3個分)、最大で336両もの車両を収容可能な設備を備えており、都営地下鉄全体でも最大規模を誇ります。
現在は三田線の8両編成化にも対応しており、その高機能性が再評価されています。
昭和が生んだ上下共存の都市構造
この奇妙にも思える構造が生まれた背景には、1960年代後半から1970年代にかけての高度経済成長期の住宅不足問題があります。
当時、東京都では人口が急増しそれに伴う住宅需要が爆発的に高まっていました。
一方、地下鉄整備に必要な車両基地は大量の土地を必要とし、ただでさえ地価の高い東京で考え出されたのが、「車両基地の上に人工地盤を築き、その上に団地を建てる」という上下活用型の都市設計でした。
この方式により、土地を無駄なく使えるうえに、三田線の整備工場と住居が一体化した都市機能複合型施設が誕生したのです。
西台アパートは1972年に人工地盤とともに完成し、当時の象徴とも言える「団塊の世代」の新婚・子育て世帯を受け入れるべく整備されました。
人工地盤の上にはかつて、板橋区立高島第四小学校が存在しプール付きの校舎が団地と並ぶように立っていました。
この小学校は2002年に廃校となり、現在は駐車場として再利用されていますが、その歴史は今も団地の住民たちの記憶に残っています。
2020年代に入ると住民の高齢化が顕著になり、空室が増えている棟もあるのが現状です。
車両基地としての重要性も健在

団地の真下で今も毎晩、運行を終えた電車たちが眠りにつくのがこの場所です。
志村車両検修場には、整備工場、保線管理所、乗務員詰所(高島平乗務管理所)など、三田線の運行に欠かせない施設が集中しています。
団地と鉄道の共存は、まさに機能と生活の融合の象徴と言えるでしょう。
特に、地下に広がる1〜18番線の留置線は圧巻、現在は19番線の使用は停止されていますが、その広さと機能性は国内でも指折りの地下鉄の基地であることに変わりありません。
まとめ
まるで異国や映画の世界に迷い込んだかのような風景を持つ西台アパートと志村車両検修場、その誕生には昭和の都市開発の工夫と、限られた土地を最大限に生かそうとした知恵が詰まっています。
団地の上で育まれた生活と、地下で今も動き続ける鉄道の営み、この上下二層の都市は私たちが普段見落としがちな東京の一面を教えてくれます。
いまでは観光名所とは言えないかもしれませんが、足を運べばきっと誰もが驚きの声を漏らすことでしょう。
西台の地下鉄秘密基地、それは東京のもう一つの顔なのです。
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