家賃2000円で住めるアパートがある街と聞いたら、思わず耳を疑ってしまうのではないでしょうか?
そんな夢のような話が現実に存在するのが、大分県杵築市です。
かつては大企業の進出で栄えたものの、リーマンショックをきっかけに一気に人口が減少し、今では日本でも屈指の家賃の安さを誇る地域として注目されています。
今回は、杵築市の過去と現在、そしてそこから見えてくる地方都市の課題と可能性を探っていきます。
工場進出で活気づいた杵築市

杵築市は大分県北東部に位置する城下町で、江戸時代から続く武家屋敷や美しい坂道が今も観光名所として残っています。
しかし1980年代に入ると、観光だけでなく工業都市としての顔を持つようになりました。
特に大きな転機となったのが、キャノンの工場進出です。
約3000人が働いたこの工場は、周辺に多数の工場労働者用アパートが急増しました。
さらに、同時期にはソニーや東芝などの大手メーカーも大分県に進出、地域は一時的に活気づき、企業城下町としての成長が期待されていました。
当時は地方における雇用の受け皿として大きな存在感を放ち、若者たちが杵築に集まり、その流れで市内の住宅需要も急増し家賃相場も高騰します。
リーマンショックで一気に家賃暴落
しかしその繁栄は長くは続きませんでした。
2008年のリーマンショックが直接的な引き金となり、世界的な需要低迷の中、キヤノンは派遣社員を大量に解雇、これにより杵築市から一気に人が流出しました。
空室だらけになったアパートは、家賃を下げざるを得なくなり、かつて月額4万円で借りられていた物件が1万円未満にまで下落、中には2000円、6000円といった信じられない値段の部屋も登場、全国的にも「日本一アパートが安い街」として話題になりました。
アパート経営者の中には破産に追い込まれる人も現れ、杵築市はかつての賑わいを失ってしまったのです。
安さを武器に生き残りを図る街
とはいえ、安い家賃はある意味で新たな価値を生み出しています。
退職後の生活拠点を探す人々や、年金暮らしで節約を重視する人たちにとって、杵築市は低コストで悠々自適に暮らせる街として注目されるようになります。
実際、早期退職したサラリーマンが1万円のアパートを借り、地方で静かな生活を楽しむケースも見られ、近年のリモートワーク普及や地方移住ブームの流れもあり、「都会で高い家賃を払うくらいなら、地方で安く広い家に住みたい」と考える層の関心も高まっています。
杵築市は歴史的な城下町として観光資源を持ち合わせているため、暮らしと観光を組み合わせた地域再生の可能性も秘めているのです。
まとめ
大分県杵築市は、かつて大手企業の工場進出で栄えた一方、リーマンショック後の派遣切りによって一気に衰退し、今では家賃激安の街として知られるようになりました。
人口減少や空室問題といった課題は深刻ですが、その一方で安い家賃で豊かに暮らすという新しい魅力も見え始めています。
地方都市の栄枯盛衰を象徴する杵築市の歩みは、今後の地方再生を考える上で大きなヒントを与えてくれるのではないでしょうか。
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