南国の香りと甘酸っぱさが魅力のパイナップル、スーパーでよく見かける果物ですが、パイナップルの種を見たことがないと感じたことはありませんか?
スイカやキウイには黒い種があるのに、パイナップルには見当たりません。
実はこれ、偶然ではなく植物としての仕組みと人間の栽培技術が関係しているのです。
今回は、パイナップルに種がない驚きの理由を紹介します。
実はパイナップルは種がある果物だった
意外に思われるかもしれませんが、パイナップルは本来種ありの果物です。
野生のパイナップルや、自然の中でハチドリなどの鳥が花粉を運ぶ環境では、果肉の中に小さな黒い種が形成されます。
これが本来の姿で、スイカやキウイのように、受粉によって果実と種の両方が育ちます。
しかし、現在私たちが食べている食用パイナップルには、その種がほとんど存在しません。
理由は、人間が長年かけて、食べやすく、甘く、育てやすい品種に改良してきたからです。
特に「スムースカイエン」という品種は、種ができにくくなるように改良されており、現在流通するパイナップルの多くはこの系統に属しています。
こうして、食卓に並ぶパイナップルは種なし果実として定着しました。
受粉しなくても実がなる単為結果とは
パイナップルが種を作らずに実をつける理由は、「単為結果(たんいけっか)」という植物の特性にあります。
単為結果とは、受粉や受精が行われなくても果実が発達する現象のことです。
通常の果物は花粉がめしべに届き、受精してから果実が成長しますが、パイナップルの場合、受粉が行われなくても果肉の部分が発達するため、結果的に種なしの実ができるのです。
この性質は、バナナやイチジク、種なしミカンなどにも見られます。
さらに、ハワイやフィリピン、沖縄などの主要な栽培地では、受粉を助けるハチドリなどが生息していないため、意図せずして「受粉しない=種ができない」状態が保たれています。
自然環境と植物の性質がうまく組み合わさっているわけですね。
人間の手で作られた種なし文化
もうひとつの理由は、人間による栽培方法です。
パイナップルは、種で増やすのではなく、株分けや挿し芽で増やされます。
果実の上にある葉付き部分(クラウン)を植えるだけで、新しい株が育つのです。
これを「栄養繁殖」と呼びます。
つまり、農家は毎回種をまく必要がなく、親株からクローンのように同じ性質の株を増やすことができます。
この方法なら、甘さや形のばらつきが少なく、安定した品質で出荷できます。
さらに、受粉を防ぐことで果実の内部に硬い種ができるのを避け、より食べやすくする狙いもあります。
実際、もし野生種のように黒い種が入っていたら、ナイフを入れた瞬間にザラッとした食感になり、商品価値が下がってしまうでしょう。
こうして「受粉しない・種を作らせない・栄養繁殖で増やす」という3つの条件がそろい、現代のパイナップルは常に種なしで私たちのもとに届くのです。
まとめ
パイナップルに種がないのは、自然の偶然でも不思議な奇跡でもありません。
本来は黒い種を持つ果物が、食べやすさを追求した人の工夫によって種なしになったのです。
パイナップルを食べる際は、その甘さの奥にある自然と人間のコラボレーションを少しだけ思い出してみてはいかがでしょうか。
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