かつては「通話無料」「小型でオシャレ」と若者の間で大流行したPHSとウィルコム(WILLCOM)、しかし今では見る影もありません。
一体なぜ、あれほど人気だったサービスが消えてしまったのでしょうか…?
PHSとウィルコムの始まり

PHS(Personal Handy-phone System)は、1995年に日本で商用サービスを開始した通信技術です。
コードレス電話の技術を応用して生まれたPHSは、携帯電話と同様に外でも通話できる便利な通信手段として登場しました。
通信エリアは限定されるものの、都市部ではクリアな音質・安定した通話が評価され、低価格な料金設定とあいまって瞬く間に若年層を中心に普及していきます。
このPHSを商業的に成功させたのが、ウィルコム(旧DDIポケット)です。
とくに2005年に導入された「ウィルコム定額プラン」は、ウィルコム同士での通話が24時間無料になるという画期的なサービスで、カップルや学生の間で大ヒット、2007年には契約者数が500万人を突破しました。
PHS端末はコンパクトでオシャレな機種が多く、「京ぽん」などの愛称で親しまれました。
中にはスマートフォンの先駆けとなる「W-ZERO3」のような高機能機種も登場し、通信業界にイノベーションをもたらしたのです。
PHSのメリットが徐々に失われた理由
PHSは一時代を築いた通信技術ではありましたが、やがてその限界が顕在化していきます。
最も大きな理由は通信エリアの狭さでした。
PHSは低出力の電波を利用していたため、都市部の密集エリアでは有効でも、郊外や山間部、屋内では電波が弱く、しばしば「圏外」になるという弱点を抱えていました。
また、携帯電話業界の急速な進化もPHSの地位を脅かします。
2000年代に入り、携帯キャリア各社(NTTドコモ、au、ソフトバンク)が激しい競争を展開、料金プランの低価格化、カメラ・音楽プレイヤー・インターネットなどの機能追加が進み、「PHSは安いけど機能が乏しい」というイメージが定着していきました。
この頃からPHSの契約者数は減少に転じ、NTTやアステルなど他のPHS事業者は相次いで撤退、最後まで残ったのがウィルコムでしたが、利用者減少は止まらずウィルコム単独での経営は次第に困難になっていきます。
さらに、世の中の流れはスマートフォン時代に突入していきます。
2008年、AppleがiPhone 3Gを日本で発売、以後スマホは爆発的に普及し、通話アプリ(Skype、LINEなど)の台頭によって「通話無料」というウィルコムの最大の武器が陳腐化してしまいました。
さらに、格安スマホ・格安SIM(MVNO)の登場もPHSの市場価値を一気に押し下げました。
ウィルコムは2台持ち需要を狙ったプロモーションを行いましたが、主力ユーザーである若者がスマホに流れたことで大きな効果は得られませんでした。
そして、2010年には経営破綻(民事再生)を迎え、最終的にソフトバンク傘下へ…2014年にはY!mobileと統合され、ブランドとしての「ウィルコム」は姿を消します。
完全終了とPHSの静かな最期
PHSサービスの終焉は、2018年に正式にアナウンスされました。
2021年1月末をもってすべてのPHS通信が終了、約25年にわたる技術の歴史に静かに幕が下ろされました。
ただし、PHSが残した功績は大きく、特に省電力・小型基地局による通信網の発想は、現在の5GインフラやIoT機器にも技術的に応用されています。
決して無駄にはなっておらず、通信技術の進化の土台として役割を果たしたのです。
まとめ
PHS、そしてそれを支えたウィルコムは、「安くて通話品質が高い」「誰でも使える通信手段」を実現した、まさに通信革命の象徴でした。
しかし、スマートフォンの登場と技術進化の波に飲まれ、次第にその存在意義を失っていったのです。
サービスの終了は寂しい出来事でしたが、PHSがもたらした通信の民主化という精神は、現代の通信サービスにも確かに受け継がれています。
ウィルコムとPHSがなぜ消えたのか…それは、「負けた」からではなく、次の時代にバトンを渡したからなのかもしれません。
あわせて読みたい|マタイク(mataiku)