1992年に登場した「日清ラ王」は、それまでのカップ麺の常識を覆しました。
従来の油揚げ麺ではなく「生タイプ麺」を採用し、ラーメン店の味に迫ると話題に…しかし2010年、その生タイプは突然市場から姿を消します。
なぜ、あれほどの人気を誇った生麺ラ王は消えてしまったのでしょうか…。
生タイプ麺の衝撃

1990年代初頭、お湯を注いで3分で食べられる利便性が最大の魅力で、カップ麺といえば、油で揚げて乾燥させた揚げ麺が主流でした。
そんな時代に登場したのが「ラ王」です。
レトルトパウチに柔らかい状態で麺を封じ込めた生タイプ麺は、他社製品とは明らかに違う食感を実現、発売翌年には1億4,000万食以上を売り上げ、カップ麺市場に旋風を巻き起こします。
価格は250円と当時のカップ麺としては高額でしたが、それでも外で食べるラーメンに匹敵する味と消費者から高く評価され、一時は年間300億円規模を売り上げる大ヒットとなりました。
まさに、本格ラーメンを家庭で!という夢を実現した象徴的な商品だったのです。
しかしその革新には、いくつかの課題が存在していました。
一度お湯を捨ててから再び注ぐ「湯切り」は、簡便さを売りにするカップ麺にしては手間がかかります。
さらに、生タイプ麺は保存性に乏しく、流通や保管にも気を使わなければなりませんでした。
美味しさと引き換えに、利便性というカップ麺の最大の武器を削ってしまったのです。
進化するノンフライ麺と便利さへの回帰
2000年代に入ると、状況はさらに変わっていきます。
ノンフライ麺の製造技術が急速に進歩し、乾燥麺でありながらも生麺に近いコシや弾力を再現できるようになりました。
熱風でじっくりと乾燥させる製法は、麺の中に微細な気泡を作り、湯戻ししたときに独特の噛み応えを生みます。
揚げ麺よりもカロリーが低く、保存性も高いことから、消費者にとってはより手軽で扱いやすい選択肢となりました。
この技術革新は「生タイプ麺」を大きく脅かしました。
ノンフライ麺は手軽さと本格性を両立した、ちょうどいい解答として市場で支持を集めるようになります。
ラ王自身も例外ではありません。
消費者から「おいしいけれど手間がかかる」「保存しづらい」といった声が広がり、かつての圧倒的な存在感は徐々に陰りを見せ始めたのです。
競争激化と自社ブランドとの衝突
市場環境の変化もラ王にとって逆風でした。
1998年以降、他社も次々と似たような高級カップ麺を投入し、価格競争が激化します。
2000年代に入るとコンビニには「ご当地系」や「高級志向」のカップ麺が並び、棚をめぐる争いも一層厳しくなりました。
さらに厳しかったのは、自社による競合でした。
日清は「麺職人」や「行列のできる店のラーメン」など、ノンフライ麺シリーズを次々と展開、結果的に自ら育てた新ブランドがラ王の販売を侵食してしまったのです。
ノンフライ麺の登場で、ラ王の販売数は年々減少…もはや高コスト・高負荷の生タイプ麺を続ける理由は薄れていきました。
そして2010年8月、日清はついに生タイプ麺のラ王を生産終了し、新たに投入されたのはノンフライ麺を採用した「2代目ラ王」です。
この刷新は当初こそ賛否を呼び、「昔の方が良かった」と懐古する声も少なくありませんでしたが、むしろ生タイプの終焉は、ラ王が生き残るための必然だったともいえるのではないでしょうか。
その後もラ王は袋麺などへ展開を広げ、現在も「まるで生麺」をうたうシリーズとして愛され続けています。
まとめ
ラ王の生麺が消えたのは、単に人気が落ちたからではありません。
生タイプ麺が抱えていた手間や保存性の課題、ノンフライ麺の進化、競争の激化、そして自社商品の台頭といった複数の要因が重なった結果でした。
しかし、本格ラーメンを家庭でという理念は、いまも新しい形で息づいています。
ラ王は姿を変えながらも、進化を続ける国民的ブランドであり続けているのです。
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