動物園でヤギを見ていると、なんだかちょっと怖い、目が独特と感じた人も多いのではないでしょうか。
しかし実は、あの横長の瞳孔(どうこう)には、草食動物が自然界を生き抜くための驚くべき知恵が隠されているのです。
今回は、ヤギの目の形に秘められた進化の理由とその驚異的な機能について紹介します。
横長の瞳孔が生み出す超広角パノラマ視界

ヤギの最大の特徴といえば、横に細長く伸びた瞳孔です。
この形には、捕食される側として生きる草食動物ならではの理由があります。
彼らにとって重要なのは、獲物を狙う集中視野ではなく、敵をいち早く察知する広い視野、そのためヤギの視界は、なんと約320〜340度にも及び人間の約200度よりも圧倒的に広いのです。
一見不思議な目の形は、どの方向から襲われてもすぐ逃げられるように進化した結果なのです。
頭を下げても水平を保つ回転する瞳孔
もうひとつの驚くべき特徴が、ヤギの瞳孔が自動的に水平を保つことです。
ヤギが草を食べるとき、顔を下げてしまうと視界が地面に偏ってしまいます。
しかし、ヤギの瞳孔は頭の角度に合わせてくるりと回転し、地平線が常に水平に見えるようになっています。
これは、前庭動眼反射という生理的な反応によって起こり、頭を傾けたとき目の筋肉が無意識に調整を行い視界を安定させる働きを持っています。
この仕組みのおかげで、ヤギは下を向いて草を食べていても周囲の敵を見逃すことがありません。
まさに、自然界の中で生き残るための自動水平システムと言えるでしょう。
草食動物に共通する瞳の進化の法則
ヤギだけでなく、馬、ヒツジ、シカなども同じように横長の瞳孔を持っています。
彼らの目が地平線を意識したように水平を保っているのは、広い草原で暮らすための進化の答えなのです。
一方、ライオンや猫などの肉食動物は縦長の瞳孔を持っています。
縦のラインは焦点を合わせやすく、距離感をつかむのに適しているため、獲物を狙うハンターに理想的な構造です。
つまり、瞳の形は生き方そのものを反映しているといえます。
また、ヤギは昼行性のため、強い日差しの中でも目を守るために横長の瞳孔が有効に働きますが、夜になると光を取り込む量が減るため、暗闇での視力はあまり良くありません。
このため、夕方以降はおとなしく群れで過ごすという行動パターンも瞳の構造と密接に関係しています。
まとめ
ヤギの目は、自然界という過酷な環境の中で命を守るために進化してきた結果です。
ちょっと怖いと感じるその瞳の奥には、自然が何百万年もかけて作り上げた究極の防御システムが息づいています。
動物園でヤギを見かけたときは、ぜひその目をじっくりと観察してみてください。
そこには、草食動物たちの静かで賢明な生き方が映し出されているはずです。
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