全品270円均一という圧倒的なコスパで支持され、都心を中心に次々と店舗を拡大した居酒屋「金の蔵」(通称きんくら)。
最盛期には約100店舗を展開し、「どこを歩いても金の蔵がある」と言われるほどの勢いがありました。
しかし、現在では池袋に1店舗を残すのみ。
そこには、時代の流れ、競争の激化、社会の変化が大きく関係していました。
金の蔵が急成長した理由とは
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2003年に業態転換し、270円均一の居酒屋として登場した「金の蔵」は、その低価格戦略が若者を中心に大ヒットしました。
当時の居酒屋といえば、個室が充実した和民や魚民などが主流で、飲み放題付きのコースが一般的でしたが、2008年のリーマン・ショック後は節約志向の高まりとともに、「とにかく安く飲みたい」というニーズが急増、こうした流れの中で、金の蔵のような低価格均一居酒屋が求められるようになりました。
また、金の蔵は山手線の主要エリアに集中出店する「ドミナント戦略」を採用、新宿・渋谷・池袋・秋葉原など、若者が集まるエリアに次々と店舗を構え、「とりあえず金の蔵に行こう」という流れを生み出しました。
雑居ビルの上層階や地下にも積極的に出店し、コストを抑えながらも都心部でのブランド認知を強化していったのです。
大学生や若手サラリーマンの間では、「1000円あれば十分」「安く長時間飲める」と評判が広がり、飲み会の定番スポットになりました。
こうして店舗数は加速度的に増え、2011年には98店舗に到達。
激安居酒屋ブームの中心的存在となったのです。
金の蔵の失速の始まり
しかし、2010年代後半に入ると、金の蔵の勢いは徐々に衰えていきます。
その背景には、飲み会文化の変化、競争の激化、経営戦略の限界がありました。
2016年頃から、働き方改革の影響で企業の宴会が減少し始め、かつては上司や同僚と大人数で居酒屋に行くのが当たり前でしたが、「仕事終わりの飲み会は残業と同じ」と考える若者が増え、宴会文化そのものが縮小していきました。
会社主導の飲み会が減ったことで、居酒屋の大人数向けの需要が大きく落ち込みます。
また、金の蔵の「均一価格戦略」も、次第に優位性を失っていきました。
2009年に鳥貴族が280円均一で展開し始めたことで、同じ低価格帯の競争が激化、さらには、晩杯屋やちょい飲み居酒屋が急成長し客層が分散していきます。
かつては「とにかく安く飲める」ことが魅力だった金の蔵ですが、他にも似たような業態が増えるにつれ、次第に選ばれにくくなっていったのです。
さらに、店舗を拡大しすぎたことで、家賃や人件費などの固定費が増大、加えて、原材料費の高騰が続き、均一価格での運営が難しくなりました。
結果として利益率が低下し、店舗の維持が困難になっていったのです。
コロナ禍で「とどめ」を刺された
こうした厳しい状況に追い打ちをかけたのが、2020年の新型コロナウイルスの流行でした。
政府の外出自粛要請や営業時間の短縮により、居酒屋業界全体が大打撃を受けたのは記憶に新しいところでしょう。
特に、金の蔵のような都心型の居酒屋はテイクアウト需要への対応が難しく、売上は激減します。
さらに、店舗の固定費が重くのしかかり、営業ができない期間も家賃や人件費の支払いで、毎月約5億円の赤字が発生したと言われています。
こうした経営負担に耐えきれず、多くの店舗が閉鎖に追い込まれました。
最盛期には100店舗近くあった金の蔵ですが、2020年以降に次々と閉店が進み、2023年にはついに池袋の1店舗を残すのみとなりました。
■ 金の蔵 池袋サンシャイン通り店
- 住所|東京都豊島区東池袋1丁目21−11 オーク池袋ビルディング B1F(池袋駅東口から徒歩3分)
- 営業時間|月~木:16:00~0:00/金:16:00~4:00/土:13:00~4:00/日、祝日:13:00~23:00
まとめ
「金の蔵」学生時代に通った思い出がある人も多いのではないでしょうか。
時代の変化によって飲食業界の勢力図は変わり続けていますが、金の蔵の急成長と衰退は、飲食業界における教訓の一つと言えるでしょう。
かつての栄光を知る者として、その歩みを振り返るとともに、今後の新たな展開に注目したいと思います。
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