高級みかんが一夜にして出荷停止?無断で日本の品種を栽培していたってどういうこと?
韓国・済州島のみかん農家が突然の崩壊劇に見舞われたその背景には、日本の新品種を巡るある問題がありました。
農業と知的財産、意外な組み合わせが世界を揺るがせた実例を紹介します。
無断栽培が招いた大混乱!済州島の農家に何が起きたのか?

2018年、韓国・済州島の一部みかん農家が、出荷直前に大打撃を受けました。
原因は、日本で開発された新品種「みはや」と「あすみ」を正規の契約なしに栽培・販売していたことです。
これらの品種は、日本の農研機構(NARO)が開発したもので、日本ではすでに品種登録し海外でも保護申請中の知的財産でした。
日本は2018年1月、韓国政府に対してこれら品種の保護登録申請を正式に提出します。
韓国の制度では、申請が受理された時点から該当品種は審査期間中であっても保護対象とされ、栽培・出荷が制限されることになります。
しかし、済州島の農家は「まだ正式登録されていないから大丈夫」と独自の解釈で栽培を続行、その結果、12月には約920トン、金額にして約5億円相当のみかんが出荷停止となり、大量の損失が発生したのです。
さらに、すでに市場に出回っていた分についても、日本側からロイヤルティ(使用料)の請求が可能とされ、農家には二重の打撃になりました。
この出来事は世界中のメディアで取り上げられ、「農業の世界にも著作権侵害がある」ことを多くの人が知るきっかけとなったのです。
知らなかったでは済まされない農業における知的財産の現実
当事者である韓国の農家は、「悪意があったわけではない」「苗木が正規のものか知らなかった」と主張するケースも少なくありません。
実際、苗木が日本からどのような経路で流通したのかは不透明で、一部では仲介業者の管理の甘さが指摘されています。
しかし、たとえ故意でなくとも、「育成者の許可を得ずに品種を栽培・販売すること」は明確な知的財産権の侵害です。
農業分野ではこれを「種苗法違反」として扱い、違反者には罰則や賠償請求が科される可能性もあります。
近年では、「シャインマスカット」や「紅はるか」といった日本生まれの人気品種が、海外で無断栽培される事例も増えており、農業界では「品種の流出防止」が喫緊の課題となっています。
合法で冷静な日本の対応と、今後求められる国際的ルールの理解
一部では「日本が仕掛けた戦略では?」と揶揄される声もありましたが、実際には日本は国際条約(UPOV条約)と韓国の法制度に則って、合法的な品種登録と保護を行っただけです。
この冷静で的確な対応は、世界中の農業・知財関係者から高く評価されました。
今回の件は、農家個人のミスというより、制度やルールへの理解不足、管理体制の甘さが招いたトラブルといえます。
国境を越えて果物や農産物が流通する現代においては、育成者権・種苗法・国際的な保護制度への理解が欠かせません。
農業はもはや、勘と経験だけでは成り立たない産業へと進化しています。
「これはおいしいから育ててみたい」と思った品種でも、きちんとした契約や許可を経ることが前提となるのです。
まとめ
今回の無断栽培事件は、農業における「知的財産権」の重要性を多くの人に知らしめるきっかけとなりました。
農家にとっては痛恨の失敗でしたが、国際社会全体が学ぶべき教訓でもあります。
これからの時代は、技術と情報に支えられた農業が主流となり、「正しく、合法的に使う」ことが当たり前になる時代です。
日本も、他国も、育てたものを守ることが求められているのです。
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