東京都に属していながら、船で24時間かかるほど離れた場所にある小笠原諸島、実は最初に発見したのは日本人ではなかったという事実をご存じですか?
それどころか、欧米人が先に住みはじめ、日本人の入植はずっと後だったという驚きの歴史があるんです。
今回は、あまり知られていない小笠原の成り立ちと、日本の領土になるまでの道のりを紹介します。
小笠原の成り立ちと、日本の領土になるまでの歴史
小笠原諸島の歴史は、日本よりもむしろ世界史の中にその足跡を残しています。
最初に小笠原諸島の存在を記録したのは、なんとスペイン人でした。
時は1543年、スペインの探検家ベルナルド・デ・ラ・トーレが、メキシコ(アカプルコ)からフィリピン(マニラ)への貿易航路、いわゆる「マニラ・ガレオン貿易路」の途中で、この島々を視認・記録したとされます。
当時、スペインは大航海時代の真っ只中、世界の海を支配しアジアとの交易に力を入れていた時代でした。
地図に新しい島を記録することは国力の象徴でもあり、発見は重要な意味を持っていたのです。
このときスペイン人は島に上陸したわけではないものの、その存在がヨーロッパ世界の地図に刻まれたことが後の国際的な注目のきっかけとなります。
ちなみに、その後欧米でこの島々は「Bonin Islands(ボニン諸島)」と呼ばれるようになりますが、これは「無人島=ぶにん」が語源だと言われています。
日本の記録と名付け親「小笠原貞頼」
小笠原諸島の日本における最初の記録は1593年(豊臣秀吉の時代)、日本人が島の存在を把握し始めたのはこのころです。
しかし、この時点では国家としての領有権を主張する動きはありませんでした。
ここで登場するのが、小笠原貞頼(おがさわら さだより)という人物です。
小笠原貞頼は徳川幕府に対し、島への渡航と開拓の許可を願い出たとされ、彼の名を取ってこの島は「小笠原島」と呼ばれるようになります。
ただし、当時の記録にはあいまいな点も多く、実際の上陸や開拓の詳細については諸説あります。
江戸時代を通して、日本政府は小笠原を明確に統治することはせず、「存在は知っているが放置された島」として長らく手がつけられませんでした。
状況が動き出すのは19世紀頃です。
この頃になると、欧米系の移民や船乗りが自発的に小笠原諸島に移住し始めます。
特に重要なのは1827年、イギリス海軍が小笠原諸島に訪れ調査を行った記録です。
彼らはすでに住み着いていたハワイ系やポリネシア系の人々とともに、一定の集落を形成していたとされています。
この頃、小笠原にはまだ日本の公的な統治は行われておらず、むしろ「多国籍な無法地帯」のような状態だったとも言えます。
日本にとっては、欧米列強に先を越されることへの危機感が生まれつつあったタイミングでもありました。
この国際的な動きを受け、ようやく日本政府は重い腰を上げます。
1876年(明治9年)、明治政府は正式に小笠原諸島を日本の領土として編入し行政組織を整備、これをもって日本は法的・実務的に小笠原を支配下に置いたことになります。
そして、1880年には東京都の前身である「東京府」の管轄下に入り、現在の「東京都小笠原村」という形のルーツがここで確立されたのです。
なぜ東京だったのか?その理由は明確で、「中央政府の直轄管理が必要な重要地域」と判断されたからにほかなりません。
戦後のアメリカ統治と、1968年の日本復帰
第二次世界大戦が終わると、小笠原諸島は一時的にアメリカの統治下に置かれます。
特に硫黄島などは軍事的な重要性が高く、長らく米軍が駐留しました。
住民の多くは一時退去させられ、島は「日本のようで日本ではない」存在となってしまいます。
しかし、その状況に終止符が打たれたのが1968年6月26日、日本政府の交渉と国際的合意のもと、小笠原諸島は正式に日本に返還され再び日本の行政下に復帰しました。
これ以降、徐々に移住者や観光客が増え、現在のような島の暮らしが再構築されていきます。
今では父島と母島を中心に約2,000人の住民が暮らし、東京都民として生活しています。
島内には学校、病院、商店、郵便局などのインフラも整い、自然とともに生きる「もうひとつの東京」として注目を集めています。
まとめ
小笠原諸島は、日本の中にありながら、世界史と深く関わる特別な島です。
スペイン人によって発見され、欧米人が先に住み、日本がそれを取り戻し、戦後にはアメリカに統治され、ようやく再び日本に戻ってきたという、まさに歴史の交差点と呼ぶにふさわしい場所です。
現在、自然保護が進み、2011年には世界自然遺産にも登録されました。
小笠原は単なる観光地ではなく、過去の国際関係や領土問題、日本の外交努力の縮図とも言える場所です。
遠く離れた海の向こうにあるこの島が、なぜ東京都なのか?そこには、400年以上にもわたる壮大なストーリーがあるのですね。
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