もし1日だけ時間を戻せたら、あなたは何をしますか?
そんな夢のようなタイムトラベルが、実は地球上のとある場所で現実的に起こり得るかも…?
その舞台は、ベーリング海峡の真ん中に浮かぶ「ダイオミード諸島」、今回はこの不思議な島々と、そこに潜む「時間旅行」のロマンを紹介します。
地球上で唯一「明日」と「昨日」が向かい合う場所

ダイオミード諸島は、アメリカとロシアの国境線上、ベーリング海峡の中央部に位置する小さな2つの島から成る群島です。
- ロシア領のラトマノフ島(別名:ビッグダイオミード島)
- アメリカ領のリトル・ダイオミード島
この2島の間の距離はわずか3.8kmほど、東京湾の中をフェリーで渡る距離にも満たないのに、ここには21時間もの時差があるのです(夏季は20時間)。
この時差を生み出しているのが「国際日付変更線」で、地球を1周する基準線として設けられたこの線が、ちょうど両島の中間点(西経168度58分37秒)を通っているため、ビッグ・ダイオミード島はリトル・ダイオミード島よりもほぼ1日進んだ未来にいるということになります。
そのことから、ビッグ・ダイオミードは「明日島(Tomorrow Island)」、リトル・ダイオミードは「昨日島(Yesterday Island)」とも呼ばれるようになりました。
たった4キロで過去に戻れる
ダイオミード諸島の魅力は、何と言ってもその「徒歩で時間をさかのぼれる可能性」にあります。
実は、冬の厳しい寒さによって、2つの島の間に広がる海は凍結し氷の橋のような状態になります。
そうなると、理論上は島から島へ歩いて渡ることが可能になるのです。
つまり、ロシア側のビッグ・ダイオミード島を日曜の夕方に出発すると、アメリカ側のリトル・ダイオミード島には土曜の夜に到着できる、というまさにタイムトラベル現象が起こります。
ただし、この移動はあくまで理論上の話であり、両国の国境管理の関係で無許可の渡航は違法です。
ビッグ・ダイオミードにはロシア軍の基地が存在し、民間人の立ち入りは制限されています。
一方のリトル・ダイオミードには約80人のイヌイット系住民が暮らし、村には学校や郵便局はあるものの、ホテルやレストラン、インターネットは存在していません。
このように、物理的にはすぐ隣に見える2つの島であっても、その間には時間と国境、歴史と政治が交錯する深いギャップが存在しているのです。
ダイオミード諸島に秘められた深い背景
この時差の島々の背景には、複雑な歴史と地政学的な事情が横たわっています。
18世紀アラスカはロシア帝国の領土でしたが、867年アメリカがアラスカを720万ドルで購入する「アラスカ購入」が行われ、その際にダイオミード諸島が国境線として明記されました。
その後、冷戦時代に入ると、ロシア側のビッグ・ダイオミード島に住んでいた住民は強制的に本土へ移住させられ、島は軍事拠点となります。
以降、ベーリング海峡はアメリカとソ連の氷のカーテンとして象徴的存在となり、両島間の交流は完全に断たれました。
それでも1987年には、アメリカ人女性スイマーが2島間を泳ぎ切り、冷戦終結の象徴として称賛されました。
この出来事は、国境を越えて距離よりも心の壁の方が問題なのだという強いメッセージを世界に届けました。
現代の私たちは、SNSでこの島々を見て「昨日と明日をまたいでみたい」「死ぬ前に訪れてみたい」と語りますが、それが叶う日はまだ遠いのが現実です。
まとめ
ダイオミード諸島は、たった3.8kmしか離れていないにもかかわらず、「時間」と「国」と「歴史」が複雑に交差する地球上でも極めてユニークな場所です。
ここには、1日だけ時間を戻すという夢を叶える理論的可能性と、決して自由に行き来できない現実の壁が共存しています。
私たちはこの島から、時差という地理的現象がもたらすロマンとともに、国境や過去の歴史が現在の人々の行動をどれほど制限するかという現実の重みも感じ取ることができるのです。
もし、1日だけ時間を戻せるとしたら――。
あわせて読みたい|マタイク(mataiku)