100年前の油で揚げたハンバーガーと聞いて、えっ、ちょっと怖い…と思う人もいれば、逆に食べてみたい!と興味を惹かれる人もいるでしょう。
アメリカ・テネシー州メンフィスには、創業以来一度も油を交換せず、継ぎ足し続けて100年以上、そんな信じられないスタイルで営業を続ける伝説のバーガーショップ「ダイアーズ・バーガーズ」が存在します。
今回は、SNSでも再び話題となったこの店の驚きの歴史と味について紹介します。
創業1912年、伝説の始まりはうっかりミス?

ダイアーズ・バーガーズ(Dyer’s Burgers)がメンフィスの地で産声をあげたのは1912年、創業者エルマー・ドク・ダイヤー氏は、独自調合のスパイスを効かせたビーフパティで勝負を仕掛けました。
しかし当初の評判は今ひとつ、そんなある日、あるコックが閉店後の油交換作業をうっかり忘れてしまったのです。
翌朝、時間がなくて仕方なく前日の油でパティを揚げたところ、なんとそれを食べた客が「人生で一番美味しいハンバーガーだ!」と大絶賛!
それをきっかけに店では油を交換するのではなく、継ぎ足して使い続けるという前代未聞のスタイルが定着しました。
今ではこの100年継ぎ足し油が、店の最大のウリとして世界中から注目を集めているのです。
他にはないパティの調理法
一般的にハンバーガーのパティは鉄板で焼かれるものですが、ダイアーズ・バーガーズでは鋳鉄製のフライヤーでパティを揚げるという独特のスタイルを貫いています。
粗挽きのビーフ100%パティを木製マレットで押し潰し熱々の油にイン、揚げることで中の脂が外に溶け出し、油そのものが旨味の宝庫となるのです。
だからこそ、長年継ぎ足された油には牛肉の風味が染み込み、他にはない奥行きのある味わいが生まれています。
さらに、1度では飽き足らず「ダブルディップ(再度油にくぐらせる)」という裏オーダーをする常連客も多く、バンズごと浸してしまう全部浸し派まで存在するほどの熱狂ぶり、これらのディープな食べ方が、観光客の興味をかきたて、わざわざ州外や国外から足を運ぶ人もいるほどです。
油の衛生面は?
さすがに100年の油ってヤバくない?と誰もが思うポイントですよね。
確かに油は時間の経過や高温調理によって酸化や劣化が進みます。
酸化した油には、健康を害する物質が含まれる可能性があるため、現代では飲食店において定期的な油交換は常識です。
では、なぜダイアーズ・バーガーズの油は大丈夫なのでしょうか?
その理由は、油の回転率が極めて高いことにあります。
店では1日に75枚以上のパティをフル稼働で揚げており、さらにポテトなど他の食材も同じ油で調理されるため、油は常に食品に吸収され自然と減っていく構造になっています。
その減った分に新しい油を継ぎ足しているので、完全に100年前の油が残っているわけではないのです。
また、油は定期的に濾過され、異物や燃えカスは除去されています。
オーナーのケンドール・ロバートソン氏も「油は安全に管理されており、品質には責任を持っている」と断言。
とはいえ、見た目や香りで拒否反応を示す人も一定数おり、好き嫌いが大きく分かれるスタイルでもあります。
100年の味は唯一無二
パティは揚げることで縮んでしまうため、ほとんどの人がダブルまたはトリプルで注文、口の中に広がる香ばしさと肉の旨味、そして油の深みが相まって、一度食べたら忘れられない味と言われています。
実際に、ここのバーガーが人生で最高だったという熱狂的ファンがいる一方で、脂っこすぎて無理、過大評価と酷評する声も…まさに賛否両論の究極グルメなのです。
2020年代に入ってからは、SNSで再拡散されたことにより再注目され、別の州から飛行機で食べに来る客や、メディア特集の常連になるなど人気は右肩上がりで、オーナーは将来的にこのバーガーをアメリカ南部全域に展開する構想も語っており、100年油はまだまだ進化の途中です。
まとめ
ダイアーズ・バーガーズは、単なる話題性だけでなく、100年以上守り抜かれた伝統と偶然から生まれた革新の象徴ともいえる存在です。
油を継ぎ足すというスタイルは現代の食品衛生基準とは一見相反しますが、常に回転し管理されたその油には、時代の味と職人の誇りがしっかりと染み込んでいます。
万人におすすめとは言いません、けれど、あなたが食にロマンを感じるタイプなら、一度は体験してみる価値があるはずです。
食の常識を覆す「100年バーガー」、ぜひその目と舌で確かめてみてはいかがでしょうか。
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