アメリカのデスバレーでは、まるで命を持っているかのように動く石が100年以上も前から目撃され、科学者たちを悩ませてきました。
その正体は長らく謎とされ、「宇宙人の仕業」や「地球のミステリー」とまで言われるほど…果たしてこの現象は本当に起きているのか?そして、どうやってその謎が解明されたのでしょうか?
100年以上解明できなかった「動く石」の謎

アメリカ・カリフォルニア州とネバダ州の州境にまたがるデスバレー国立公園、世界でも有数の高温乾燥地帯として知られるこの地に、かつて鉱山労働者によって発見された奇妙な現象があります。
それが「動く石(sailing rocks)」です。
レーストラック・プラヤと呼ばれる広大な塩類平原、地面は乾いた泥で覆われており、一見どこにでもあるような殺風景な土地で、誰も見ていない間に石が移動し、地表に長い軌跡を残すという現象がたびたび確認されてきました。
石のサイズは15cm程度の小石から、270kgを超える岩までさまざまでその軌跡は時に1km以上にも及びます。
この現象は1915年に報告され、1940年代からは科学者たちによる研究が本格化します。
しかし、数年に一度しか発生せず、目撃者も存在しないことから未解決の自然現象として長らく扱われてきました。
やがて、ハリケーンの風、地震、藻類の滑り膜、果ては宇宙人説まで登場する始末で、石が動く理由は100年近くも謎のままだったのです。
科学の力が生んだ歴史的解明
転機が訪れたのは2011年、スクリップス海洋研究所のリチャード・ノリス氏とジェームズ・ノリス氏ら研究チームが、最新の技術を駆使して観測を開始しました。
彼らは石にGPS発信機を取り付け、タイムラプスカメラや気象観測機器を設置、何年も現地に通い気が遠くなるような地道な観察を続けました。
そしてついに2013年12月、石が実際に動く瞬間の撮影に成功、その映像とデータにより石が動くには特定の自然条件が重なったときにだけ起こるという事実が明らかになったのです。
この現象を生む条件は、主に以下の3つ、
- 降雨によって平原に浅い水たまりができること(極めて稀)
- 夜間に冷え込んで水面が凍り、薄い氷のシートが形成されること
- 朝になって氷が溶け始めるタイミングで、風速3〜4.5m程度の微風が吹くこと
これらが揃ったとき、氷の破片が石の上流側に集まり、押すような力となって石が湿った地表を滑らせるのです。
石が動く速さは、毎分2〜5メートル程度と非常にゆっくりで、実際には「氷が石を押す」という力学による移動でした。
奇跡を生むゴルディロックス現象とは?
研究チームは、この現象をゴルディロックス現象と名付けました。
童話『ゴルディロックスと三匹のくま』に由来する言葉で、「熱すぎず、冷たすぎず、ちょうどよい」状態が必要な場面で使われます。
この現象でも、条件が少しでもズレると成立しません。
- 氷が厚すぎると風で動かない
- 氷が薄すぎるとすぐに砕けて力が伝わらない
- 風が強すぎると氷が壊れてしまい、石に力が加わらない
- 水が多すぎると氷が形成されず、そもそも現象が発生しない
さらに、デスバレーは年間降水量が50mm未満という超乾燥地帯であり、水たまり自体ができることすら珍しいのです。
つまり、水・氷・風という3つの要素が絶妙なバランスで揃ったときにだけ石は動くのです。
まとめ
100年以上にわたって人々を魅了し続けてきた「デスバレーの動く石」は、今やそのメカニズムが科学によって解明されました。
水、氷、風、ごく当たり前の自然の要素が、限りなく稀な条件で組み合わさることで生まれるこの現象は、まさに地球の奇跡と呼ぶにふさわしいものです。
デスバレーを訪れる機会があれば、石が動くその瞬間に立ち会えるかもしれませんね。
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