外に出ただけでタバコ何十本分の有害物質を吸い込むと聞いたら…世界には、「吸ったら体に悪い空気」に包まれた街が存在します。
そんな場所では、外を歩くだけで目が痛くなり、喉が焼けるように痛み、咳が止まらなくなることも…。
今回は、世界でもとくに深刻な大気汚染を抱える2都市をご紹介します。
ニューデリー(インド)世界最悪の首都、その空は灰色の毒

インドの首都ニューデリーは、もはや「汚染」という言葉では収まりきらないほどの空気危機に直面しています。
2024年には年間平均PM2.5濃度が91.8μg/m³に達し、世界保健機関(WHO)の安全基準の18倍を超える結果になっています。
しかもこれは一年を通じた平均であり、冬季には200〜400μg/m³に跳ね上がることもあり、AQI(空気質指数)が「500+(スケール外)」となる日も頻発しているのです。
なぜここまで汚染されているのか?
この都市の空気がこれほどまでに悪化したのは、複数の要因が複雑に絡み合っています。
まず交通インフラの老朽化と車両数の急増、特に排ガス規制の緩いディーゼル車が多く、都市全体が排煙で覆われています。
さらに都市開発に伴う建設現場からの粉じん、家庭でのごみの野焼き、近郊州で行われる農業廃棄物(稲わらなど)の大規模焼却が追い打ちをかけます。
これらに加えて、冬の無風状態や気温の逆転現象により汚染物質が地表に滞留し、都市全体がスモッグのドームに包まれてしまうのです。
ニューデリーでは外に1日いただけで、タバコ20〜25本分に相当するPM2.5を吸入するというデータもあります。
住民の多くは目の痛み、喉の乾燥、しつこい咳を慢性的に抱えており、子どもの肺機能は未発達のまま成長を迎えるケースも。
また高齢者においては、呼吸器疾患に加え、心臓病や脳卒中のリスクが有意に高まるとされています。
実際、デリーで暮らす人の平均寿命は、清浄地域に比べて最大で12年も短くなる可能性があると警鐘を鳴らす研究もあります。
ホータン(中国)砂とススが支配する見えない砂漠

新疆ウイグル自治区の南端に位置するホータン(和田市)は、世界の大気汚染都市ランキングでたびたび上位に顔を出す街です。
2024年時点での年間PM2.5濃度は約90.5μg/m³に達し、これもWHO基準の18倍以上。
インドのニューデリーと肩を並べる深刻な汚染地域でありながら、あまり知られていない「静かな空気地獄」といえるでしょう。
何が原因でこんなに空気が悪いのか?
ホータンの特徴は、自然由来と人為的汚染のダブルパンチです。
まず最大の要因は「タクラマカン砂漠」に隣接していること、ここから吹き荒れる砂嵐は、微粒子レベルの粉じん(PM10〜PM2.5)を大量に巻き上げ、視界が真っ白になるほどの砂の霧が発生します。
そして寒冷な冬季には、今でも多くの家庭が石炭を燃やして暖をとっており、これによるススや有毒ガスも深刻な空気汚染源となっているのです。
さらに環境規制が十分に行き届いておらず、排煙設備のない工場や老朽車両の排ガスが放置され、空気の質は一向に改善されません。
ホータンに住む多くの人々は、慢性的な目の充血、喉の違和感、呼吸の浅さを感じながら生活しています。
しかし問題は、それが日常化しており、「少し空気が悪い日」として済まされてしまっていること。
特に子どもたちの肺機能発達には明らかな悪影響があり、長期的には成人後の呼吸器疾患リスクを高めるとされています。
また高齢者では、心筋梗塞や脳血管障害の発症率が他都市より高い傾向にあります。
それでもこの地域は政治的に閉ざされており、環境問題に関する監視や改善運動が進みにくいという深刻な事情があります。
まとめ
ニューデリーとホータンは、どちらもPM2.5の年間平均濃度が90μg/m³を超える、人間が安心して呼吸できない都市です。
工業化、交通インフラの老朽化、自然条件の悪化が重なり、呼吸器や循環器への健康リスクが常に住民を脅かしています。
それでも多くの人々は、仕事や生活のためにそこから離れられず、汚染された空気とともに暮らし続けているのが現実です。
見えないからこそ恐ろしい空気の危機は、今も確実に、静かに人々の健康を蝕んでいるのです。
あわせて読みたい|マタイク(mataiku)