お買い物中に耳にする「〇〇様、至急〇〇売場までお越しください」という店内アナウンス、実は普通のお客様呼び出しに見えて従業員だけに通じる暗号であることをご存じでしょうか?
さらには、店内の流れる音楽にまで隠された合図があります。
今回は、そんな店内アナウンス暗号の代表例と、実際にどのように使われ、従業員がどんな思いで受け止めていたのかというリアルな裏側まで紹介します。
店内アナウンスに隠された暗号
■五八様(ごはちさま)
五八様とはお得意様を指す隠語で、語源は 5×8=40 → 「しじゅう(始終)来てくれる」 という言葉遊びです。
百貨店では「五八様がお越しです」とインカムで共有されると、従業員の間に自然と緊張感が走り、売場全体の雰囲気が一段と引き締まります。
常連客は売上を支える大切な存在であるため、呼び出しを耳にしたスタッフは表情を整え、接客態度も一層丁寧になります。
実際に現場では、インカムが入ると背筋が伸びるという声も多く、日常的に働くスタッフにとっても一種のスイッチのような役割を果たしていました。
■いくらちゃん
いくらちゃんとは、値段だけを次々と聞くものの、結局何も買わないお客様を意味します。
店員同士の会話で「いくらちゃんだね」と合図することで、深追いした接客を避け、余計な時間や労力をかけないように調整していたのです。
もちろん接客の基本は平等ですが、現場では「何度も同じように値段を聞かれて、結局買わないと分かっている相手に粘っても効率が悪い」という本音がありました。
そのため、この隠語があることでスタッフ同士が空気を共有し、対応の仕方を暗黙に決めることができたのです。
時には「また来たな」と笑いに変えるような使われ方もされ、働く側のストレスを軽くする意味合いもありました。
■川中島
川中島は、万引き客を警戒する合図です。
買わなかった=かわなかったから「川中」となり、放送をきっかけに従業員が一斉に警戒態勢に入ります。
この放送が流れると、スタッフは自然に目配せをしながら死角をカバーし合い、不審な動きに敏感になりました。
実際に現場では「川中様が流れると一気に空気が変わる」と言われるほどで、普段は和やかな売場も暗号が流れた瞬間から監視モードに切り替わるのです。
お客様には気づかれずに雰囲気を崩さないようにしながらも、従業員間では緊張感を共有できる仕組みでした。
■伊丹よりお越しの〇〇様
伊丹様は、クレーム客を指す隠語です。
伊丹=いたみ(痛み)から転じて、店にとって痛みとなるお客様のことで、放送が流れると従業員は即座に状況を察し、問題のある売場に応援へ駆けつけます。
現場ではこの合図が非常に重要でした。
クレーム対応を一人で抱えると精神的にも体力的にも消耗しますが、「伊丹様」と流れればすぐに仲間が来てくれるという安心感がありました。
中には「放送を聞いた瞬間に心強さを感じた」という声もあり、暗号が単なる隠語ではなく、従業員の支え合いを生む仕組みとして機能していたことがわかります。
BGMに隠された暗号
■Singin’ in the Rain
映画『雨に唄えば』のテーマ「Singin’ in the Rain」が流れると、それは外で雨が降り出した合図です。
お客様に「ただいま雨が降っております」と直接伝えてしまうと、一気に帰宅してしまうリスクがあるため、BGMに暗号を仕込み従業員だけが気づけるようにしていたのです。
この曲が流れるとスタッフはすぐに入口に傘袋を補充したり、「雨で足元が滑りやすいのでお気をつけください」と声をかける準備を始めました。
現場では「曲を聴いた瞬間、あ、雨だなと反射的に動ける」という意識が共有されていて、まるで合図を受けたチームが一斉に行動するような統率感が生まれていました。
■Top of the World
カーペンターズの「Top of the World」は、売上ノルマ達成の暗号として流されました。
「今日は頑張ったぞ!」というサインでもあり、スタッフの間では自然と笑顔が増える特別な瞬間でした。
接客で疲れていた従業員も、この曲を耳にすると安堵の気持ちになり、最後まで気持ちよく働けたといいます。
音楽を使った暗号は、従業員の士気を高めフロア全体をポジティブに包み込む役割を果たしていました。
まとめ
店内アナウンスやBGMには、実はお客様にはわからない隠語や暗号が数多く仕込まれています。
これらはすべて、お客様に余計な不安や不快感を与えずに、従業員が瞬時に状況を共有し動けるように工夫されたものです。
実際に現場で働いていた人々は、暗号を合図に心を引き締めたり安心したりと、日々の仕事を支える大切な仕組みとして活用していました。
上記以外でも店内でふと耳にするアナウンスや音楽、もしかすると裏に隠されたメッセージがあるかもしれませんね。
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