ブルドッグといえば、しわの多い顔にずんぐりとした体、どこか憎めない愛嬌のある表情が魅力の犬ですよね。
しかしその可愛らしい見た目の裏には、実は人間の「かわいい」という欲求が生み出した深刻な健康問題が隠されています。
今回は、そんなブルドッグが背負う悲しい宿命について紹介します。
ブルドッグが抱える身体の問題
ブルドッグはその特徴的な顔立ち、短い鼻、つぶれたような顔によって世界中で人気を集めています。
ですが、実は彼らにとって深刻な障害となっています。
鼻が極端に短く、気道が狭いため、常に呼吸が苦しい状態にある犬も少なくありません。
人間で例えるなら、常に鼻づまりのような状態で生きているのです。
加えて、ブルドッグは骨盤が狭すぎるという問題もあります。
このため、自然分娩はほぼ不可能で、ほとんどの出産が帝王切開によって行われます。
可愛いからと、人が改良を重ねた結果、ブルドッグは自力で子どもを産むことすらできない体になってしまったのです。
闘牛から始まった歴史
では、どうしてブルドックが誕生したのでしょうか。
実はブルドッグは、自然界に存在していた犬ではなく、人間が目的のために交配して生み出した人工的な犬種なのです。
そのルーツは中世イギリスにまでさかのぼります。
当時、「ブル・ベイティング」という牛と犬を戦わせる残酷な娯楽が流行していました。
この競技で活躍するために、牛の鼻先に低い姿勢で噛みつけるよう、鼻が短くあごが強い犬が求められ、作り出されたのがブルドッグの原型です。
しかし1835年、動物虐待としてこの競技が禁止されると、ブルドッグは行き場を失います。
その後、人々は性格を温厚にし、見た目をより愛らしくするために改良を重ね、現在のブルドッグが存在します。
しかし、かわいらしさを求めた改良こそが、呼吸困難や出産の問題を悪化させる原因となってしまったのです。
つまり、ブルドッグの苦しみの背景には、人間の美的価値観と欲望があるのです。
世界が動き始めた健康を守るための取り組み
こうした健康問題を重く見た国々では、近年、犬の福祉を守るための法規制が進んでいます。
オランダやノルウェーでは、短頭種と呼ばれる鼻の短い犬の繁殖や販売を制限する法律が施行されました。
対象となるのは、ブルドッグだけでなく、フレンチ・ブルドッグ、パグ、シーズーなども含まれています。
これらの国々では、「見た目の可愛さよりも命の健やかさを大切にする」という考えが広まりつつあります。
また、近年ではブルドッグの健康的な姿を取り戻そうと、旧イングリッシュ・ブルドッグを元にした「オールド・イングリッシュ・ブルドッグ」という新たな犬種の開発も進められています。
これは、呼吸や出産に支障がない体を目指した再生プロジェクトともいえる取り組みです。
日本ではまだ大きな法的規制はありませんが、SNSや動物保護団体の活動を通じて、命を軽視しない飼い方への意識が高まっています。
「かわいい」だけではない、犬の本当の幸せを考える時代に変わりつつあるのです。
まとめ
ブルドッグは、見た目の愛らしさから世界中で愛されていますが、その魅力の裏には人間の手によって作られた「生きづらい体」という現実があります。
これから私たちが考えるべきは、「どんな見た目の犬が可愛いか」ではなく、「どんな環境なら犬が幸せに生きられるか」という視点です。
それこそが、動物と共に生きる人間としての第一歩なのかもしれません。
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