かつては80店舗以上が並び、地域の新たなランドマークになるはずだったショッピングモールが、今ではスーパーの1店舗とバナナ園だけ…。
福岡県水巻町にある「グランモール水巻」は、開業からわずか数年で廃墟化し、その後は全国でも珍しい形態へと変貌しました。
なぜこんな状況になったのか?現地の歴史と現在の姿を掘り下げます。
80店舗で華々しく開業も…数年で廃墟化した理由

グランモール水巻は2011年7月1日に全面開業しました。
もともとは「生活城塞都市メルカート」という大型商業施設構想があったものの計画は頓挫、その後、長期の準備期間を経て誕生したのが、グランモール水巻でした。
開業当初はラ・ムーやホームセンターナフコを核に、飲食店や専門店を含めた80店舗規模でスタート、しかし集客は一時的なもので、わずか数年で衰退の兆しを見せます。
最大の原因は立地とアクセスの悪さでした。
最寄り駅は水巻駅ですが徒歩圏とは言いがたく、駅からの道も歩道が狭く整備不足、さらに国道3号沿いという立地ながら、車で入りづらい構造や周辺道路の渋滞が集客の妨げとなります。
加えて、近隣には「イオンモール八幡東」や「ショッパーズモール仲間」といった強力な競合が存在、買い物客は次第に他施設へ流れ、2014年夏頃までに多くの店舗が撤退することになったのです。
2021年2月以降はディスカウントスーパー「ラ・ムー」だけが営業する状態になります。
唯一残ったスーパー「ラ・ムー」
現在も営業を続けるラ・ムーは、岡山県水島に本社を置く大黒天物産が運営するディスカウントストアです。
九州では珍しい存在ですが、岡山では「ディオ」の名で親しまれており、安価な弁当や食料品で人気を集めています。
特に、店頭で販売される6個入り100円のたこ焼きは名物で、平日でも行列ができるほどの盛況ぶりです。
このラ・ムーの存在が、グランモール水巻を完全な廃墟にしない唯一の要因と言えるでしょう。
広大な駐車場には地元客の車が並び、日常の買い物スポットとしての役割を果たし続けています。
しかし、ラ・ムーの周囲に広がるテナント区画はシャッターが下りたまま、かつてサイゼリヤやゲームセンターがあったスペースも閉鎖され、空間は静まり返っています。
館内には「温故知新」という言葉が掲げられていますが、その意味を知る人は少なく、今となっては皮肉にも感じられます。
空きテナントを活用した「バナナ園」
衰退の中で注目を集めたのが、2018年の建物売却後に始まった新たな試みです。
不動産投資会社を経て入居したのは「アグレボ・バイオ・テクノロジー・センター」という企業が、空きフロアを屋内植物工場に転用し、バナナの苗を栽培しているのです。
商業施設の一角で農業を行うという全国的にも珍しい事例で、商業エリアと農園が共存するユニークな光景が広がっています。
施設外からは栽培の様子は見られませんが、館内にはバナナ園の区画が確かに存在、これによりグランモール水巻は「スーパーとバナナ園があるショッピングモール」という唯一無二の存在となりました。
この再利用は、空き物件活用の新たな形としても注目されています。
廃墟化した大型商業施設は全国各地にありますが、その多くは再開発まで放置されるケースがほとんど、そんな中、農業との融合は稀であり地域経済や雇用にも一定の貢献を果たしている可能性もあるのではないでしょうか…。
まとめ
グランモール水巻は、立地や競合の影響で急速に衰退したショッピングモールの象徴的な例です。
しかし、スーパー「ラ・ムー」の存続と、空きフロアを活用したバナナ園という予想外の展開によって、完全な廃墟にはなっていません。
廃墟化というネガティブな結末にとどまらず、発想の転換によって新たな命を吹き込むことができる、それを示す貴重な実例と言えるでしょう。
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