2009年ベルリン世界陸上でウサイン・ボルトが叩き出した100m走の世界記録「9秒58」、この衝撃的なタイムは16年経った今も誰ひとり破ることができていません。
先日の世界大会、2025年の世界陸上・東京(国立競技場)でも男子100mは優勝「9秒77」で、世界記録更新はならず、最速の名は依然ボルトにとどまっています。
今回は、記録を前半と後半に分解し、他のトップスプリンターと比較しながら、ボルトの異次元さを紹介します。
前半60m
100m走はスタートからゴールまで一瞬で駆け抜ける競技ですが、細かく見ると「前半の加速区間」と「後半の最高速維持区間」に分けられます。
ボルトの9秒58を分解すると、前半60mが6秒31、後半40mが3秒27、この数字は人類史上でも突出していますが、前半に限って言えばボルトを上回った選手がいます。
中国の蘇炳添(そ・へいてん) とアメリカのクリスチャン・コールマン、いずれも100mの前半60m通過で、蘇が6秒29、コールマンが6秒30という驚異的な数値を記録しました。
つまり、スタート~加速の爆発力では、ボルト以上の部分的最速が存在するのです。
とはいえ、問題はここから先が、減速との戦いになる後半となります。
後半40m
ボルトの真骨頂は、最高速に乗った後半40mです。
多くのスプリンターは加速を終えたのち、空気抵抗や筋出力のピークアウトでどうしても減速していきます。
ところがボルトは、後半40mから異常なほどスピードを維持しました。
2009年ベルリンで隣のレーンを走った タイソン・ゲイ は、当時の歴代2位となる9秒71に到達しましたが、後半40mは3秒31、この人類最上位クラスの後半ラップをもってしても、ボルトの3秒27には届かなかったのです。
さらに注目すべきはボルトの身体特性と運動様式です。
身長196cmという長身は通常、スタートの反応や加速局面では不利とされますが、ボルトは長大なストライド(1歩約2.6m)に加え、高いピッチを維持することでデメリットを帳消しにしました。
最高速到達後の減速率が極端に小さいため、後半40mを異常な水準でまとめ切れるこの「ストライド×ピッチ×減速抑制」の同時実現が、他の選手にはほぼ見られない組み合わせなのです。
最新の東京大会を経てもなお、世界記録保持者はウサイン・ボルトのままで、100m世界記録9秒58(2009年・ベルリン)は現役で、男子100mの象徴的ベンチマークとして聳え続けています。
まとめ
ウサイン・ボルトの100m世界記録9秒58は、単なる数字ではなく「前半も後半も同時に突出」という、ほぼ不可能な条件が噛み合って成立した人類の壁です。
9秒58は依然として生きた記録であり、最新の舞台が証明したのは、この壁の厚さでした。
将来、天性の資質とテクノロジー、戦術、条件が完璧に噛み合う瞬間が来るかもしれませんね!
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