双胴の悪魔と恐れられた戦闘機をご存じですか?
第二次世界大戦で零戦や隼と死闘を繰り広げた、異形の機体「P-38ライトニング」。
日本ではペロハチと侮られたその機体が、なぜ恐怖の象徴へと変貌したのか…その進化の秘密に迫ります。
独特すぎる外見に込められた「理詰め」の設計思想

P-38ライトニングが他の戦闘機と一線を画すのは、一目見ただけでわかります。
中央に操縦席、その左右にエンジンを搭載した双胴構造(ツインブーム)という特異なスタイル、この設計は奇をてらったものではなく、むしろ高高度・高速性能という当時のアメリカ陸軍航空隊の厳しい要求をクリアするために導き出された理詰めの答えでした。
開発を手がけたのはロッキード社、主任設計者クラレンス・L・ケリー・ジョンソンの指揮のもと、1937年に要求された「時速360マイル(約666km/h)での高高度迎撃」という課題に応えるべく、P-38は誕生したのです。
当時、単発でそれだけの出力を持つエンジンは存在せず必然的に双発構成になりました。
そして空気抵抗を減らすために水冷直列エンジンを左右に分離し、操縦席を中央ポッドに配置するという斬新な案が採用されたのです。
さらにこの機体には、アリソン製V型12気筒エンジン(V-1710)が搭載され、左右のエンジンは逆回転に設定されており、飛行の安定性も追求されていました。
この理想の迎撃戦闘機は、結果的に太平洋戦線と欧州戦線の両方で大活躍することになります。
日本ではペロハチ、ドイツでは双胴の悪魔
P-38はその性能とインパクトある外見から、ドイツ軍兵士には「Fork-Tailed Devil(双胴の悪魔)」という恐れのあだ名で呼ばれました。
理由は明確で、高速・高火力・長距離を兼ね備えたP-38が、欧州戦線において圧倒的な力を見せつけたからです。
しかし、日本では少し違った評価がされていました。
太平洋戦線でP-38が初期投入された際、日本の零戦や隼の方が旋回性能で優れていたため、格闘戦になると分が悪く撃墜されることが多発しました。
これを見た日本兵たちは、P-38のことを「ペロリと食えるP-38=ペロハチ」と侮蔑的に呼んでいたのです。
このように、同じ機体が国によって真逆の評価を受けていた背景には、戦術の違いと運用方法の成熟度の差があります。
日本側がP-38を「軽く見ていた」のは初期の話であり、その後の戦況では完全に立場が逆転することになります。
戦術転換で変貌したP-38の真価
当初、P-38はドッグファイトに持ち込まれると不利でしたが、アメリカ軍は機体性能を徹底分析したうえで戦術を再構築、速度と火力を最大限に生かす「一撃離脱型(Boom & Zoom)」戦法に切り替えました。
この戦法では、P-38は高高度から急降下して一撃を加え、そのまま加速して離脱、旋回戦には持ち込まれず、零戦の長所が発揮できない形に持ち込むことで、着実に戦果を挙げるようになります。
1943年には、この機体が歴史的な大戦果を挙げました。
旧日本海軍の英雄・山本五十六連合艦隊司令長官の乗る一式陸攻を撃墜したのが、まさにこのP-38だったのです。
長距離飛行を可能にする、その足の長さなくしては不可能だった作戦とされており、以降P-38は日本軍にとって「恐るべき仇敵」として認識されるようになりました。
また、偵察機型や夜間戦闘機型にも派生し、マルチロールファイター(多用途戦闘機)としての側面も発揮していきます。
現代に息づくライトニングの系譜
P-38の名は、現代のアメリカ空軍が運用するF-35「ライトニングII」にも受け継がれています。
「II(ツー)」と名付けられているのは、まさにP-38が初代「ライトニング」であることを示すためです。
F-35はステルス性・多機能性を兼ね備えた最新鋭機であり、開発元もまたロッキード・マーティン社、P-38の時代には小規模だったロッキード社が、現代の航空機開発をリードする企業へと成長した背景には、この「双胴の悪魔」が築いた技術的・戦術的土台があります。
さらに、当時P-38にエンジンを供給していたアリソン社(後にロールス・ロイス傘下)のDNAも、F-35のリフトファンに引き継がれており、80年の時を越えて再びライトニングでロッキードとアリソンが手を組む構図は、歴史好きやミリタリーファンにとって感慨深いポイントです。
まとめ
P-38ライトニングは、戦術・技術・開発思想が結晶した合理の極みの名機です。
初期には日本軍に侮られたものの、運用法と改良で逆転し、ドイツでは双胴の悪魔、日本では仇敵と恐れられる存在へと進化しました。
現代のF-35へと連なるライトニングの名前は、単なるオマージュではなく、航空技術史における明確な系譜として意味を持ちます。
今なお飛行可能なP-38が存在することも、その完成度と伝説性を物語っていますね。
奇抜で美しく、そして恐ろしく強い、P-38ライトニングはまさに飛ぶ神話そのものだったのです。
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