初詣や観光の際、「願いが叶いそうだから」「ご利益がありそうだから」と、池や泉に小銭を投げ入れたことはありませんか?
実はその行為が神社や自然環境にとって、ありがた迷惑どころか深刻な問題になっているケースが、全国で相次いでいます。
神聖な場所を守るために、私たち参拝者が知っておくべき現実とは何なのでしょうか…。
神秘の泉が抱える静かな悲鳴
茨城県日立市に鎮座する泉神社は、境内に湧き出る泉が名前の由来となっている由緒ある神社です。
この泉は、透き通るような青色と清らかな水質から「平成の名水百選」にも選ばれ、ザリガニや水鳥などが生息する貴重な自然環境でもあります。
しかし近年、この神聖な泉に大量の小銭が投げ込まれる問題が起きており、水が澄んでいるがゆえに、小銭は池底ではっきりと目立ち、神秘的な景観を大きく損ねています。
神社側は本来、注意喚起の看板を設置すること自体を望んでいません。
神聖な空間に人工的な掲示物を置くことは、雰囲気や信仰心を損ねかねないからです。
それでも水質悪化や生態系への影響を懸念し、やむを得ず「小銭を投げ入れないでください」と呼びかける状況に追い込まれています。
回収作業は年に数回、氏子やボランティアによって行われますが、水深は深い場所で約2メートルにも及び、決して安全で容易な作業ではありません。
神職からは「神様のいらっしゃる場所を、人間の行為で汚してしまっているのではないか」という切実な声も上がっています。
世界遺産でも止まらない善意の暴走
この問題は一部の神社だけの話ではありません。
世界文化遺産・富士山の構成資産として知られる忍野八海でも、同様の被害が深刻化しています。
忍野八海は、富士山の雪解け水が長い年月をかけて湧き出す池群で、その透明度の高さは国内外から多くの観光客を惹きつけています。
ところが池の底を覗くと、白い粒のように見えるものの正体は無数の硬貨です。
許可を得てボランティアで回収作業を行うダイバーによれば、場所によっては1メートル以上の厚さで小銭が堆積していることもあるといいます。
一度の回収で、バケツ数杯分の硬貨が引き上げられることも珍しくありません。
問題は景観だけではなく、金属が長期間水中にあることで、水質や水生生物への影響など、自然環境そのものを脅かす存在になっています。
自治体は看板設置や呼びかけを続けていますが、観光客の増加とともに状況はなかなか改善していないのが現実です。
初詣でこそ考えたい信仰とマナー
小銭を投げ入れる行為は、多くの場合、悪意ではなく善意や信仰心から生まれています。
しかし、その善意が環境破壊や信仰の本質からの逸脱につながってしまうこともあるのです。
本来、賽銭は賽銭箱に納めるものであり、水辺や神域に投げ入れる行為は、神様への敬意とは異なる方向に向いてしまっています。
「願いを届けたい」という気持ちが強いほど、行動が独りよがりになってしまう危険性もあるでしょう。
これから迎える初詣シーズンは、多くの人が神社仏閣を訪れます。
だからこそ、自分の行為が誰かの負担になっていないか?神聖な場所を汚していないか?を一度立ち止まって考えることが大切です。
ご利益を願う行動が、結果として迷惑になることもある、その事実を知ること自体が、現代の参拝者に求められる新しいマナーなのかもしれません。
まとめ
神社や自然は、願いを投げ込む場所ではなく、敬意をもって向き合う場所です。
これからの初詣では、正しい参拝の形を意識し、神様にも自然にも負担をかけない行動を心がけたいものです。
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