大西洋の海底に、ポルシェやランボルギーニが沈んでいる…まるで海外の都市伝説のようですが、これは実際に起きた事故です。
2022年、約4,000台もの高級外車を積んだ自動車運搬船が火災を起こし沈没、なぜ世界最大級とも言われる「高級外車の墓場」が生まれてしまったのでしょうか。
日本の海運大手が関わった大西洋の事故
事故が発生したのは2022年2月16日、ドイツ・エムデン港を出港し、アメリカ・ロードアイランド州へ向かっていた自動車運搬船「フェリシティ・エース」で火災が起きました。
この船は、日本の大手海運会社商船三井(MOL)グループの「MOL Ship Management(シンガポール法人)」が運航管理を行っていた自動車運搬船です。
火災発生後、乗組員22名は全員無事に避難し、人的被害はありませんでした。
しかし、船内の火は簡単には消えず、フェリシティ・エースは約2週間にわたって大西洋を漂流します。
一時は、曳航できる状態まで回復したと報じられ、最悪の事態は避けられると見られていましたが、2022年3月1日、ポルトガル領アゾレス諸島沖約220マイルの海域で船は突然沈没、日本の海運技術が関わる船で起きた、極めて異例の結末となりました。
海に沈んだ夢のガレージとその価値
フェリシティ・エースが「高級外車の墓場」と呼ばれる理由は、合計3,965台のフォルクスワーゲングループの新車が積まれていたからです。
内訳は、ポルシェ約1,100台、アウディ約1,900台、フォルクスワーゲン約500台、ベントレー:189台、ランボルギーニ約85台、中でも注目されたのが、ランボルギーニ・アヴェンタドールの最終モデルなど、1台数千万円クラスの希少車が積まれていたことです。
日本を含む世界中の顧客に納車される予定でしたが、結果としてこれらの車は一度も公道を走ることなく海底へ沈みました。
被害総額は自動車だけで約4億ドル規模とされ、まさに「世界最大級の水中高級車コレクション」が誕生してしまったのです。
EV火災説の誤解と沈没の本当の原因
この事故では、「EVのリチウムイオン電池が原因で火災が拡大した」という説が広まりましたが、出火原因は公式には特定されていません。
確かに船内には電気自動車(EV)も多く積まれており、リチウムイオン電池が関係する火災は消火が難しいとされています。
ただし、EVが火元だったと断定する根拠はなく、正確には「消火活動を困難にした可能性がある要因の一つ」と考えられています。
沈没の直接的な原因として挙げられているのは、「長時間の火災による船体構造の深刻な損傷」「当日の荒天と高波」「その状態で開始された曳航作業」曳航開始後、船内への浸水が進み船は右舷側へ大きく傾斜、そのまま安定性を失い沈没しました。
高度な海運技術をもってしても、防ぎきれなかった複合事故だったのです。
まとめ
フェリシティ・エース沈没事故は、約4,000台の高級外車が海底に眠るという、現実とは思えない出来事でした。
この船は日本の商船三井グループが運航管理を担っており、日本にとっても決して無関係な事故ではありません。
この事件は、日本の海運業、そしてEV時代の輸送リスクを考える上で、強い示唆を与える事故として記憶され続けるでしょう。
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