「最近ちょっと元気がない」「イライラしやすい」、学校や園でがんばる子どもたちは、気づかないうちに心も脳も疲れています。
栄養は足りているのに、なんだか不安定。そんなとき、子どもの回復をそっと後押ししてくれるのが “食事の時間の過ごし方”。何を食べるかより、どんな気持ちで食卓に向かうか。 その小さな違いが、子どもの脳をゆるめ、元気を取り戻すきっかけになります。
では、日々の中でどのように取り入れていけばいいのでしょうか。心療内科医・横倉恒雄先生に、 子どもの心と脳を整える「快食」習慣について伺いました。
ちゃんと食べているのに不調」そんなときに見直したい“食事の時間”
多くの家庭では「栄養=いい食事」と考えられています。もちろん栄養は大切ですが、横倉先生は 「それだけでは子どもの脳は十分に満たされない」 と話します。
「食べることで脳がどれだけ“満たされた”と感じるかが重要です。
たとえば、
- 時間に追われて急いで食べる
- 「残さないで」「これを食べなさい」と声をかけすぎる
- テレビやスマホを見ながら食べる
- 個食が多く、会話がほとんどない
こうした食事では五感が働きにくく、脳が“満足した”と感じにくくなります。
その結果、イライラ・集中力の低下・落ち着きのなさといった不調が続くことも。ただし、これは親が悪いわけではありません。仕事・家事・育児に追われる中で「ちゃんと食べさせなきゃ」と頑張るほど、食事が“こなすべきこと”になってしまう、それは、親が一生懸命だからこそ起きることなのです」(横倉先生)
子どものイライラ・やる気のなさは“脳の疲れ”のサインかも

子どもは毎日、大人以上に多くの刺激を受けています。
新しい環境、友達、集団生活、そしてデジタル機器からの情報、知らないうちに脳は疲れ、休まる時間が少なくなっています。
「“やる気がない”“わがまま”に見える行動でも、脳の疲れが原因のことは多いのです」(横倉先生)
脳が疲れていると、心の問題のように見えてしまうことがあります。 そんなとき、脳の回復を助けるのが“食事の仕方”“感じ方”です。
「“おいしい”と感じることは、脳にとっての休息です。 味わう・楽しむ・安心して食べる——これらはすべて脳のリラックスにつながります」(横倉先生)
脳は五感の刺激で整います。 五感が十分に働かない食事では、脳は回復モードに入りにくい。 だからこそ、食事は栄養だけでなく“脳を整える時間”でもあるのです」(横倉先生)
横倉先生が提唱する「快食」子どもの脳を整える新習慣
快食とは、食べることで脳に“快(ここちよさ)”を届ける食事のこと。ポイントは栄養よりも「感覚」です。
- おいしい
- 楽しい
- ほっとする
- 満たされる
こうした感覚が、疲れた脳をゆっくり整えていきます。
現代は食の情報があふれ、「良い・悪い」で判断しがちです。しかし、情報に縛られすぎると、食事そのものがストレスになり、脳を疲れさせてしまいます。食事はコントロールするものではなく“感じるもの”。 大切なのは“何を食べるか”より“どう食べるか”です。
忙しい家庭でもできる「快食」の実践ヒント4つ

- 空腹を我慢させすぎない
「空腹はそれ自体がストレス。まずは子どもの状態を整えることが優先です。黒砂糖を少し口にすると、気持ちが落ち着きやすくなります。“甘いものはよくない“と心配する親も多いですが、黒砂糖はむしろ脳に良い食べ物。脳のエネルギー源になるブドウ糖、カルシウムなどのミネラルが含まれ、脳の働きをサポートし、頭をすっきりさせる助けになります」(横倉先生)
小さくカットしたものを小瓶等に入れておくと、忙しいときも便利です。 - 「おいしく食べる」を最優先に
好きなものを楽しく美味しく味わうことが、脳への直接的なアプローチ。“おいしい”とリラックスして感じる気持ちが、脳をゆるめてくれます。 - 食事に“関わる体験”を増やす
一緒に料理する、味見をする、盛りつけをする。 食事の準備に少し関わるだけで、食事は「自分ごと」になり、味・香り・食感への感度が高まります。 - 「快食デー」をつくる
週1回、子どもが主役の「快食デー」を。 「ふだんの生活での我慢や、“こうしなきゃ”と緊張しがちな子どもの心のこわばりが、「今日は好きなものだけ食べていいよ」の一言でふっとゆるみます。 好きなものを選んで思いきり食べる“満足感”は、脳を元気な状態に切り替え、心に余白をつくります」(横倉先生)
「甘いものばかり欲しがる」「食べすぎ」も脳疲労のサイン
甘いものばかり欲しがる、食べすぎる…これも“わがまま”ではなく、脳が疲れてエネルギーを求めているサインのことがあります。
強いストレスがあると、脳は自分を守るためにエネルギーを求めるようになります。
食欲の乱れは、脳の防御反応でもあります。だからこそ、制限ではなく満たすことが先なのです。
子どもを変える前に、食卓を少し変えてみる

「おいしく楽しく食べる」食卓を最優先に。完璧な食事でなくても、手作りでなくてもいいんです。
「おいしいね」と笑い合う、その小さな瞬間が、子どもの脳と心をゆっくり落ち着かせていきます。
本来、人は五感を通して自然に満たされる力を持っていますが、今の生活ではその感覚が失われやすくなっています。だからこそ、食事の時間を“感じる時間”に戻すことが、子どもの脳と心を整える大きなきっかけになります」(横倉先生)
毎日の食事を心がふっとゆるむ時間に。 親も子どもも忙しい今だからこそ、こうした食卓を囲む時ひとときが、そっと満たしてくれる大切な時間になるでしょう。

心療内科医|横倉恒雄先生
医学博士。婦人科医、心療内科医。茶道家・表千家准教授。横倉クリニック(東京.田町)院長。慶應義塾大学医学部産婦人科入局。東京都済生会中央病院産婦人科に勤務、同病院にて日本初の「健康外来」を創設。病名がない不調を抱える患者さんにも常に寄り添った診察を心がけている。クリニックで行っている講座も好評。著書に『脳疲労に克つ』『心と体が軽くなる本物のダイエット』『今朝の院長の独り言』他。
取材・文/入江由記
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