大分県と愛媛県の間、つまり九州と四国を隔てる豊予海峡(ほうよかいきょう)には、なぜいまだに橋やトンネルが架けられていないのでしょうか?
SNSでもたびたび話題になるこの疑問、実はただの「お金がかかる」だけでは済まされない、驚くほど複雑で深い理由が存在していたのです。
今回は、誰もが納得せざるを得ないその背景に迫ります。
夢の構想から半世紀、なぜ未だに実現しないのか?

四国(愛媛県佐田岬半島)と九州(大分県佐賀関)を隔てる豊予海峡、その距離はわずか14km程度とされ、天候が良ければ対岸が肉眼で見えるほどの近さです。
それだけに「橋やトンネルでつなげば便利なのに」と多くの人が思うのも自然な発想でしょう。
実際、このルートを橋や海底トンネルで結ぶ構想は1965年の第二東西道路構想に登場しています。
以降、1993年には豊予海峡ルート推進協議会が発足し、地元自治体や経済界が実現に向けて動き始めました。
しかし、2003年には当時の大分県知事が財政難を理由に近い将来の実現は困難と明言、計画は事実上の凍結状態に入り、今日に至るまで進展していません。
では、なぜここまで難航しているのでしょうか?
前例なき難工事、地形と海流が最大の壁
最も大きな障壁は、豊予海峡の自然条件です。
一見穏やかに見えるこの海峡ですが、実際には非常に厳しい環境が広がっています。
まず、海底は最大水深が200mを超える深さがあり、これは青函トンネル(最深部約240m)を凌ぐ難所です。
橋を架けようにも、中央支間長が8kmを超える前代未聞の吊り橋が必要となり、技術的にも世界最大級のプロジェクトになります。
トンネルも容易ではありません。
掘削深度は300m近くに達し、軟弱地盤や高い水圧、潮流の影響など、予測不能なリスクが多く存在します。
さらに、トンネル内の安全対策や避難経路の整備も複雑を極めるため、前例のない巨大工事となるのです。
このように、自然の制約によって「技術的に建設不可能ではないが、極めて困難」という判断が続いているのが現実です。
膨大な建設費と採算の見通しが立たない現実
次に立ちはだかるのがコストの壁です。
専門家の試算によると、豊予海峡ルートの整備には最低でも1兆円以上が必要とされています。
しかも、それは単体の建設費にとどまらず、接続する道路網や周辺インフラを含めれば、さらに膨大な予算が必要です。
にもかかわらず、現在の九州~四国間の交通需要はさほど高くありません。
実際、現在はフェリーが1日十数便運航されており、車両も人も比較的スムーズに移動できています。
これでは「費用対効果」の観点から事業化が正当化されにくく、採算が取れないと判断されるのも当然でしょう。
また、国全体が人口減少・少子高齢化という課題に直面している中で、リターンの見込めない超大型インフラ投資には国も二の足を踏んでいるのです。
それでも今、再び注目される理由とは?
それでも近年、豊予海峡ルートに再び光が差しつつあります。
きっかけは、九州の半導体産業の急成長です。
2023年、台湾のTSMCが熊本に工場を建設したことを皮切りに、九州全体で半導体関連企業の投資が活発化、さらには政府も「半導体・デジタル産業戦略」を掲げ、2030年までに国内生産額を15兆円に拡大する目標を明示しました。
この流れの中で、九州~四国~関西を結ぶ高速物流ルートの整備が急務とされ、豊予海峡ルートの役割が再評価されているのです。
輸送効率の改善だけでなく、観光の活性化や災害時のリダンダンシー(冗長性)確保といった観点からも、その戦略的価値が注目されています。
ただし、これはあくまで他のインフラ(東九州新幹線、各種自動車道)と連動して初めて真価を発揮するものであり、単体での効果は限定的です。
現在は「機運の醸成」と「国への働きかけ」の段階であり、現実化にはまだ長い道のりが残されています。
まとめ
九州と四国の間に橋やトンネルがない理由は、距離が短いからすぐ作れそうという単純な話ではありません。
自然の制約、技術的ハードル、膨大なコスト、低い採算性――それぞれが深い理由を持ち、複雑に絡み合っています。
しかし今、日本の産業構造が大きく変わろうとしている中で、豊予海峡ルートの必要性が再び語られ始めています。
夢物語と思われていた構想が、再び現実味を帯びる今、豊予海峡ルートが実現するかどうかは、「その必要性をどう訴え、どれだけの世論と政治的支持を得られるか」にかかっています。
今後の展開に注目が集まりますね。
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