今夜のこと娘には内緒ね…義母の玲子さんがそう言って微笑んだ瞬間、僕は返事ができませんでした。
冗談だと思えばいい、いつもの大人っぽい軽口だと思えばいい、なのに、その夜だけは違ったんです。
妻には言えない、義母への感情
僕は35歳の会社員、妻の美咲とは結婚して5年になります。
大きな喧嘩もなく、夫婦関係はいたって普通、そんな僕が密かに苦手としていたのが、妻の母親である玲子さんでした。
苦手といっても嫌いなのではなく、むしろその逆です。
50歳を迎えたばかりとは思えないほど若々しく、肩まで伸びた黒髪に、すらりとした立ち姿、派手なタイプではないのに、妙に目を引く女性でした。
そして何より困るのが、距離感です。
義母「ねえ、今日の私どう?」
家族で食事に出かける前、玲子さんは僕にそんなことを平然と聞いてきます。
自分「似合ってますよ」
義母「それだけ?」
自分「……きれいです」
すると玲子さんは満足そうに笑う。
義母「ふふっ。美咲より先にあなたに聞いちゃった」
もちろん、ただの冗談、そう思っていました。
あの夜までは…。
二人きりになった夜
金曜日の夜、妻は友人の結婚式に出席するため、泊まりがけで出かけていました。
仕事から帰った僕が一人で夕食を済ませようとしていると、インターホンが鳴り、モニターに映っていたのは玲子さん。
義母「煮物作りすぎちゃったから、持ってきたの」
玄関を開けると、いつもより少しだけ華やかな玲子さんが立っていました。
自分「上がります?」
何気なく言った、その一言、今でも後悔しています。
テーブルを挟み、二人でお酒を飲み始め、妻の子どもの頃の話、仕事の愚痴、結婚生活のこと、話題は尽きません。
やがて玲子さんがグラスを置き、僕をじっと見つめました。
義母「美咲とは、うまくいってる?」
自分「まあ……普通ですよ」
義母「普通って、一番寂しい言葉かもね」
妙に胸に刺さりました。
玲子さんは窓の外を眺めながら、小さく笑います。
義母「夫婦って不思議よね。ずっと一緒にいると、好きなのに相手を見なくなる」
その横顔が、なぜか寂しそうに見えました。
僕は初めて、彼女を妻の母親ではなく、一人の女性として見てしまったのかもしれません。
帰る時間になり、玲子さんは玄関へ向かいました。
自分「送りますよ」
義母「すぐそこだから大丈夫」
靴を履こうとした彼女が、ふいに振り返ります。
距離が近い、お酒のせいなのか、僕の心臓は異様なほど速くなっていました。
すると玲子さんが言ったんです。
義母「ねえ……ひとつだけ聞いていい?」
自分「何ですか?」
少しの沈黙、そして…「私のこと、女として見たことある?」
頭の中が真っ白になりました。
否定すればいい、「ありませんよ」と笑えば、それで終わる、それなのに僕は何も言えませんでした。
沈黙そのものが、答えになってしまったのでしょう。
玲子さんの表情から笑みが消えます。
義母「そんな顔されたら、困るな」
越えてはいけない境界線が、目の前にある、妻の顔が浮かびます。
それでも次の瞬間、玲子さんの指が僕の手にそっと触れました。
義母「今なら、まだ何もなかったことにできるよ」
その言葉とは裏腹に、彼女の手は離れません。
そして、二人の距離はなくなりました。
その夜、僕たちは家族という関係だけでは説明できない秘密を抱えることになったのです。
朝、目を覚ました僕は、昨夜までとはまったく違う部屋にいるような感覚に襲われました。
玲子さんは玄関で靴を履くと、一度だけ振り返りました。
義母「昨日のこと、忘れて」
そう言って笑った彼女の顔は、どこか泣きそうでした。
数時間後、何も知らない妻が笑顔で帰ってきました。
僕も笑って迎えます。
いつもと同じリビング、いつもと同じ夫婦、ただ一つ違うのは…妻のスマホに玲子さんから着信が入るたび、僕の心臓が跳ねるようになったことでした。
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