世界一危険な湖と言われるアフリカの「ヴィクトリア湖」、世界第3位の広さを誇るこの美しい湖では、なんと毎年約5000人が命を落としていると報告されています。
ただの自然現象では片づけられないその背景には、思わず「なるほど…」と唸る深刻な問題が隠されていました。
今回は、ヴィクトリア湖が「死の湖」と恐れられる3つの理由を紹介します。
赤道直下の自然環境がもたらす死の嵐

ヴィクトリア湖は、アフリカ東部のウガンダ・タンザニア・ケニアにまたがり、約7万平方キロメートルという巨大な面積を誇ります。
これは琵琶湖の100倍以上であり、淡水湖としては世界で2番目に大きいスケールです。
この広大な湖が危険視される最大の理由の一つが、突発的な悪天候による船の転覆事故です。
ヴィクトリア湖は赤道直下に位置するため水温が高く、対流活動が活発で大量の雲が発生しやすい環境にあります。
その結果、突然の雷雨や突風を伴う嵐が湖面で多発し、穏やかだった天候が出航後すぐに豹変することも珍しくありません。
ウガンダの気象学者によると、こうした嵐は「ヴィクトリア湖特有の気象現象」とされ、局地的かつ急激な悪化が特徴です。
漁業や日常の移動にボートを利用する人々にとって、天候の急変は命に直結する脅威、特に高波や突風によって老朽化した船は容易に転覆してしまいます。
貧困とインフラ未整備の現実
もう一つの重大な要因は、安全対策が全く追いついていない地域事情です。
ヴィクトリア湖周辺の多くの住民は、漁業や運搬で生計を立てていますが、深刻な貧困層が多数を占めています。
彼らはボロボロの手作り船や中古のボートを使い、ライフジャケットすら買う余裕がありません。
そのため、ひとたび事故が起きれば、救命措置が機能せず即座に命を落とすことが多いのです。
さらに致命的なのは、通信インフラの脆弱さです。
携帯電波が届かないエリアも多く、事故が発生しても救助要請ができず助けを呼ぶ手段がないという現実があります。
現地当局によると、湖の沖合で事故が発生した場合ほとんどの人が溺死または病死する結果になっています。
衛生状況も悪く、湖水には寄生虫や病原菌も多く含まれており、事故で水を飲んでしまったり感染症にかかって命を落とす例も少なくありません。
生態系崩壊がもたらした二次被害と事故の連鎖
ヴィクトリア湖の危険性には生態系の破壊という背景も関係しています。
1950年代、漁業資源の回復を目的として、当時のイギリス植民地政府が外来種のナイルパーチ(オオクチスズキ類)を湖に導入しました。
この魚は肉食性で、もともと湖に生息していた数百種の固有魚類を捕食し生態系は一気に崩壊、その結果、湖には水草(ヒシやウォーターヒヤシンス)が大量発生し、水流が悪化して水質汚濁と寄生虫の繁殖が進みました。
これが前述した病気のリスクとも連動し、湖に落ちた人々が感染症や寄生虫によって死亡する要因となっているのです。
現在は、こうした水草の駆除や衛生状態の改善も試みられていますが、完全な回復には至っていません。
さらに、湖内には80以上の有人島が点在し多くの定期船が航行していることによる、交通量の多さも事故率を押し上げる要因となっています。
まとめ
ヴィクトリア湖は、その壮大な景観と生物多様性から「アフリカの宝」とも呼ばれてきました。
しかし突発的な嵐、貧困による安全装備の欠如、そして生態系の破壊による病原リスクなどにより、年間5000人もの命が失われる過酷な現実があります。
これらが複雑に絡み合い、「世界一危険な湖」と呼ばれるに至ったのです。
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