録音した自分の声を聞いた瞬間、「え、こんな声してた?」と驚いた経験はありませんか。
普段の自分の声とあまりに違って聞こえるせいで、なんともいえない気恥ずかしさや嫌悪感を覚える人も少なくありません。
実はこの違和感には、心理学・脳科学・聴覚の仕組みが複雑に関わっているのです。
自分の声だけ特別という錯覚
自分の声に違和感を感じる理由のひとつは、「自分の声だけはよく知っている」と勘違いしていることにあります。
人は他人の声には寛容なのに、自分の声には妙に厳しくなりがちです。
その背景にあるのが、心理学でいう「ボイス・コンフロンテーション」という現象で、これは自分の声を他人の声として聴くことで生じる心理的ストレスです。
普段、自分の声は頭の中で響いているため、私たちは「自分の声はこういう音だ」という自己イメージを強く持っています。
しかし録音した声は、日常の自己イメージとは全く異なるため、脳がこれは本当に自分?と混乱し、強い違和感として表れます。
興味深いのは、この現象が性格の強さや自己肯定感とは無関係であることです。
どんなにポジティブな人でも、初めて録音した声を聴くと驚きますし、むしろ自分の声に違和感を持つということは、自分の感覚が正常に働いている証拠なのです。
さらに近年の研究では、自分の声にネガティブな印象を持つ人は「声の印象=自分の印象」という思い込みが強い傾向があると言われています。
聴覚の仕組みがつくる声のズレ
簡単に言うと、私たちが普段聞いている自分の声は、空気伝導(外からの音)、骨伝導(頭蓋骨の振動が伝わる音)この2種類の音の合成です。
骨伝導の音は低音が強いため、日常の自分の声は落ち着いた低めのトーンで聞こえています。
しかし、録音された声は空気伝導のみなので、低音が弱く結果として、「思ったより高い」、「軽く聞こえる」、「薄い声に感じる」といった印象が生まれるのです。
ここで誤解してはいけないのは、録音した声こそが「他人に聞こえている本当の自分の声である」という点です。
つまり、あなたがおかしいと思ったその声は、周囲の人にとっては日常的に聞き慣れたものなのです。
このズレがショックになるのは当然で、人によっては「こんな声で話していたなんて」と落ち込むこともあります。
しかし、これは声の良し悪しには全く関係ありません。
また、電話の声が普段以上に聞き取りにくかったり、ラジオのパーソナリティの声が妙に聞き取りやすかったりするのも、音声処理の仕組みと関係しています。
声というのは、私たちが思っている以上に「聴き方」に左右されているのです。
脳が感じる予測外の音が不快の原因
心理学と聴覚の違いに加えて、脳の働きも大きく関わっています。
脳は常に「次に来る音はだいたいこうだろう」という予測を立てて音を処理しています。
これは、予測符号化という仕組みで、外の世界を効率よく理解するための脳の高度な能力です。
しかし録音した自分の声は、脳の予測とは大きく異なっています。
結果として、「自分の声のはずなのに自分じゃない」という予測誤差が強く生じ、さらに脳は自分の声を聴くと無意識に「自己照合」を行い、ここでのズレが大きいとストレス反応が生まれます。
これは決して異常な反応ではなく、むしろ脳が正常に機能している証拠です。
自分の声が嫌いという感覚は、脳・耳・心理が複雑に絡み合った、極めて自然な現象なのです。
まとめ
録音した自分の声に強い違和感を覚えるのは、多くの人に共通する自然な反応です。
違和感の仕組みを知れば、自分の声を受け入れやすくなり、より自然に自信を持って話せるようになるでしょう。
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